冒頭で紹介した、徹底的にモノが排除されたChatWorkのオフィスは、同社が提案する働きやすい環境の理想形だ。「チャットワーク」を利用するほかは、指紋認証システムを置くなどして、モノがなくても業務が円滑に進むためのシステムやマニュアルが緻密につくられている。完璧なシステムのおかげで、新入社員もすぐにモノがない異質なオフィスに馴染めるのだ。

社員全員がミニマリストという同社。働き始めると、プライベートにも如実に変化が表れてくる。田口さんは趣味のボルダリングをする時間と、妻の家事を手伝う時間が増えた。

「当社ではモノをなくして時間を節約できた分、休暇を増やしています。一般的な企業より20日ほど多い年間約140日。土日、祝日休みのほか、ゴールデンウイークと夏休み、冬休みには長期休暇がもらえる。ならすと3日に1回の割合で休みがある計算。モノがなくなると、自宅にいる時間も長くなり、家族とのコミュニケーションもとれるようになるんです」

河野さんも、入社3カ月後に「視界がぱーんと開けるような」気持ちの変化を感じたという。モノを持つことで不自由になっていたことを実感し、自然と、自宅でも整理整頓をするようになった。

「以前は、自宅に家具を並べるのが好きで、洋服もたくさん持っていました。気付かずに似たような服を買ってしまうこともしょっちゅう。でも、モノのない環境で働くうちに、モノに囲まれて生活することに居心地の悪さを感じるようになってきたんです。少しずつ自宅のものを捨て始めて、今では食器棚も処分しました。部屋にあるのは、テレビとベッドとソファだけ。洋服は収納に入りきる分だけ。モノを増やすことが嫌になって、衝動買いをすることもなくなったんです。持ち物が限られてくると、いるモノといらないモノの判断もすぐにできるようになりました」

ビジネスマンがいかにモノに煩わされているか。物質を徹底的に排除すれば仕事ははかどり、気持ちや時間に余裕さえ生まれて生活が豊かになることをChatWorkは提示している。

▼ChatWork式モノ整理術「3カ条」

1. 机にモノを広げない
おのおのが何もないところに自分のPCを持ってきて仕事をする。モノを広げることはなく、机の上にあるのはPCとコーヒーなどの飲み物。ほかには数人がスマホも置いているくらい。社員全員がミニマリストだ。
2. 紙、電話、社員証なし
社員証もつくっておらず、オフィスに入るときも指紋認証で扉を開ける。オフィス内ではペンで紙や手帳にメモを取る人は一人もいない。会社の備品だけでなく、個人の私物も最小化する意識が浸透している。
3. プリンター、会議室なし
一般の企業には多くの場合置いているプリンターや複合機も同社には1台もない。FAXでのやり取りもデータ化されている。個室の会議室も設けておらず、予約などの調整や、部屋への移動時間までも削減している。

(大崎えりや=撮影)
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