アベノミクスを見限った「新しい判断」

さらに、運賃など規制にがんじがらめのタクシー業界にも値下げの動きが波及した。都内最大手の日本交通は4月、初乗り1.059キロで410円の実質値下げを国土交通省に申請した。これには台数換算で都内事業者の7割超が同調し、来春にも都内などで初乗り運賃が値下がりする見通しとなった。

また、4月に主力銘柄を値上げした日本たばこ産業(JT)に追随し、8月から主力銘柄「ラーク」の値上げを財務省に申請したフィリップモリスジャパンは値上げに伴う販売減少を懸念し、6月に入って値上げを撤回した。これらはいずれも日本銀行が目標に据えた2%の物価上昇によるデフレ脱却を公約したアベノミクスに裏切られ、一向に上向かない個人消費に業を煮やした末の「新しい判断」と受け取れよう。

安倍首相は7月10日投開票の参院選を視野に消費増税を先送りし、それに先立つ主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)でリーマンショック級の世界経済のリスクへの備えを、議長国としてごり押しして首脳宣言に押し込んだ。結果的に、英国民が6月23日の国民投票で欧州連合(EU)からの離脱を選択したことから、安倍首相は24日の関係閣僚会議で消費増税延期の「判断は正しかった」と強調した。

しかし、これは“後出しジャンケン”であることは否めず、説得力は持たない。むしろ、これをきっかけにした世界規模での金融混乱で「円安・株高」が生命線のアベノミクスそのものが脅かされかねない。このため、参院選後に安倍首相はがむしゃらに大型の補正予算編成に動くのは必至だ。

その意味で、デフレ脱却を果たせていないアベノミクスを早々と見限った消費の現場の「新しい判断」は正しい選択だったように映る。

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