「透明性」最優先

今回のエンブレム選考は「透明性」に腐心し、慎重に進められた。とくに類似などの指摘がないよう、商標調査に神経をとがらせてきた。なぜかといえば、当初採用のデザイナー佐野研二郎さんによる旧エンブレムが「盗作疑惑」で撤回されていたからである。組織委として、もう同じ失敗は繰り返すことができない。いわばマイナスからのスタートだったから、選考作業では徹底的な商標調査を実施し、これほど時間を要することになった。 

エンブレム委員会は15回も開催された。その間、商標調査ではねられた作品は多々、あった。この日の最後のエンブレム委員会で公開された冒頭部分の各委員の発言は興味深いものがあった。夏野剛委員は言った。

「ここにくるまで、もっとインパクトがあったんだけど、やっぱりちょっと類似があるよねとか、もっとデザインとしては日本的に美しいんだけど、類似でダメだったよねといったことが数多くあった」

これに宮田委員長が続く。「そういえば、夏野委員が、類似作品があるので、涙をのんで、ある作品を落とさざるをえなかったという発言をしたこともありましたね」と。

インターネット時代だからだろう、最終候補の4作品の公表もネットによる批判を意識したものだった。あるエンブレム委員は「まあ、今日まで(ネットで)炎上しなかったので、ホッとしています」と本音を漏らした。

東京五輪組織委の武藤敏郎事務総長は発表会見で国民の「参画」を何度も強調した。新たなエンブレム選考では、応募条件を大幅に緩くして1万4599点もの作品を集め、度重なる選考作業で4つの最終候補作に絞って公表し、10日間、一般の人々からインターネットやはがきで意見を吸い上げた。意見や評価を参考にすることもあろうが、公表の大きな目的は批判や「盗作」「模倣」の疑念を事前に避けるためだったであろう。