心房細動を起こしやすい甲状腺ホルモン過剰

管理職となった今でも1日のうち病院にいる時間は以前と変わりませんが、前よりもさらにすき間なく無駄なく時間を使わなければいけないという自覚はあります。最近は、特に地方から私の手術を受けに来る患者さんも多いこともあり、前よりも患者さんの対応を早くするようにしているくらいです。来た方から手術を計画しないとどんどん後回しになってしまいます。患者さんに迷惑をかけてしまっては元も子もありません。以前から何度か書いているように私の手術のモットーは「早い、安い、うまい」で、実行あるのみです。

実は先日、私自身が「心房細動」になりました。心臓は、左右の心室と心房の4つの部屋に分かれています。心房細動は、心室に血液を送り出す心房がけいれんしたような状態になって、心臓の機能が低下する病気です。私の場合、なんとなく左の胸のあたりに空洞ができたような感じになって、脈が非常に速くなりました。

心房細動は、致死的な不整脈である心室細動ほどすぐに命に関わることは少ないものの、脳梗塞を引き起こすことがある病気です。私には働き盛りの時期に甲状腺機能亢進症に傾く持病があり、甲状腺ホルモンを抑える薬を服用していますが、甲状腺ホルモンが過剰になると心房細動を起こしやすくなるので、8年前にも同じような不整脈を起こしたことがありました。ただ、今回は1日程度続き以前より発作が長かったので、このまま脳梗塞を引き起こしたらどうしようかと不安な気持ちで一夜を過ごしました。幸い大事には至らずに済みましたが、改めて患者さんはいつもこのような不安を抱えているのだと実感し、少しでも早く症状を取り除く治療に移すことが最も大切なことだと思いました。

心臓疾患を指摘されて日常生活に制限を受けたり、突然死の危険性を宣告されて順天堂医院を訪れる患者さんたちの不安を早く解消するためにも、手術が必要な患者さんには、お待たせしても患者さんの都合や仕事の整理をつける期間くらいにして、「早い、安い、うまい」手術を施したいと思います。患者さんを守り、期待通りに治して、ご満足いただく医療を完成させたいと心に期しています。同時に、自分のスケジュール管理と健康管理も今まで以上にしっかりしなければと反省し、きちんと対応していきます。

天野 篤(あまの・あつし)
順天堂大学病院副院長・心臓血管外科教授
1955年埼玉県生まれ。83年日本大学医学部卒業。新東京病院心臓血管外科部長、昭和大学横浜市北部病院循環器センター長・教授などを経て、2002年より現職。冠動脈オフポンプ・バイパス手術の第一人者であり、12年2月、天皇陛下の心臓手術を執刀。著書に『最新よくわかる心臓病』(誠文堂新光社)、『一途一心、命をつなぐ』(飛鳥新社)、『熱く生きる 赤本 覚悟を持て編』『熱く生きる 青本 道を究めろ編』(セブン&アイ出版)など。
(構成=福島安紀 撮影=的野弘路)
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