トースターの給水口

そこからさらに開発を進めていくと、スチーム機能だけでなく、トーストが焼き上がるまでに「温度制御」も大切だとわかってきました。食パンが温められる過程では、3つの化学反応が起こっています。なかでも特に大切なのが160度前後の温度帯で起こる「メイラード反応」です。このときに食パンの色が茶色くなり、香ばしいナッツの匂いがしてくる。だから、私たちのトースターでは160度前後の温度帯をすごく長めに取れるように温度制御しています。パンが焦げるのではないかとよく聞かれますが、230度前後の温度帯に達しなければ、いくら160度で長く熱し続けていても焦げることはありません。

でも、トーストが出てくるときに目の前にあるのが、近代的で無機的なトースターだったらどうでしょう。僕だったらちょっとクラシカルで、重みがあるデザインのもののほうが、トースト自体も美味しそうに感じます。そのため、過去に私たちが手がけてきた近代的な扇風機や空気清浄機などの路線からは外れ、ボディカラーには黒と金をあしらい、少し丸みを持たせることにしました。

また、トースターの窓はわざと小ぶりにしています。中の様子が見えないのは不便です。でも、覗き込むって楽しい。「何かグツグツしているよ」と、ちょっと見えるくらいがちょうどいい。本当に美味しいトーストができるのかどうか、期待と不安を抱きながら待つ。その2、3分自体が貴い体験です。

発売から2カ月で2万台が完売

2015年6月発売。価格は2万2900円(税抜)。初回ロット2万台は先行予約にて2カ月で完売。2015年度グッドデザイン賞で金賞を受賞。16年1月28日、国際的に最も権威のあるデザイン賞のひとつ、ドイツの「iF・デザイン・アワード2016」にて「iF・デザイン・アワード プロダクト部門」を受賞。

 
寺尾 玄(バルミューダ代表取締役)
1973年生まれ。高校中退後、スペイン、イタリア、モロッコなどを放浪。帰国後、音楽活動を経て、モノづくりの道を志す。2003年に有限会社バルミューダデザインを設立(11年4月、バルミューダ株式会社へ社名変更)。扇風機「GreenFan」、空気清浄機「AirEngine」など数々の製品を手がける。
(構成=矢倉比呂 撮影=佐藤新也)
【関連記事】
社員50名!「いいモノは高くても売れる」バルミューダ3万円の扇風機で証明
社員4名! Bsize「美しく、高性能」なデスクライトで数カ月待ちの大ヒット
「二子玉川 蔦屋家電」1日中居ても飽きない、夢見心地な空間
「日の丸家電」を復活させるキーマンはどんな人間か
テレビ、PC、炊飯器……本当に必要な家電のスペックは?