「そもそも合併に対等などはありえません」

順調に昇進してきたのに、突然の合併で降格の憂き目に遭う人は珍しくありません。国内外の競争が激しくなる中で会社の生き残りをかけたM&A(合併・買収)が活発化しています。合併発表では、両社の「対等合併」を強調し、トップ同士がニコニコしながら握手している光景がテレビで映し出されますが、内実はそんなものではありません。

合併後は、重複する部署などの組織のスリム化が断行され、当然ポストも半減します。合併を経験した大手IT企業の人事部長は「そもそも合併に対等などはありえません。強い会社が主導権を握り、一気にリストラや人事制度を改革し、ポストを一新する作業を進めなければ、ゼロサムの競争の世界では生き残れないのです」と言います。

『人事部はここを見ている!』溝上憲文著(プレジデント社刊)

では実際にどのようにして新しいポストが決まるのでしょうか。業界上位と中堅の合併で誕生した流通会社の場合、当初は既存の部署を温存し、両社の"たすきがけ"でライン管理職のポストを配分。たすきがけとは、ある部署では部長がA社の社員なら次長がB社、課長がA社、別の部署は部長がB社、次長がA社、課長がB社という具合にポストを分け合うことです。しかし、これはあくまでも管理職としての実力をチェックする試験期間であり、その後に大きく変化します。

「1年もすると管理職として本当に仕事ができるかどうかが如実にわかります。その後、各部署を統合し、半分がラインのポストを外れ、部下なしの担当部長、課長に退く。3年もたつと、業界上位の会社の社員が大部分のポストを握り、中堅会社の社員の7割がその地位を追われました」(流通業人事部長)

もちろん、その裏では、互いにライバルを蹴落とす“暗闘”が繰り返されたと言います。しかし、強者の企業がポストを独占すると、相手側の若手社員の意欲を削ぎ、離職してしまうなどの弊害も発生します。そうならないようにするために人事部も知恵を絞ります。前出のIT企業の人事部長は「相手企業の優秀な若手の課長を部長に抜擢しましたが、若手からスター選手を生み出すことが大事な肝です。『中高年は降格させられたが、彼は評価され、出世した』と他の若手社員に思われることで士気も高まる」と言います。

辛いのは降格された中高年管理職です。若手管理職の下で一兵卒として働くか、系列企業に飛ばされる。あるいは、リストラの候補者になる場合もあります。

※本連載は書籍『人事部はここを見ている!』(溝上憲文著)からの抜粋です。