なぜ「商品見るだけの客」が買ったのか

一方、ベテラン俳優の伊吹吾郎さんの場合。入室時からテレビ番組「水戸黄門」の角さんなみの威厳のある声と、「見るだけ」の姿勢を堂々と貫いており、とても絵を買うという雰囲気にはならなかった。

スタッフの間にもとても購入は難しいという雰囲気が出ていた。

しかし、私は彼の一連の行動に「男気」というキーワードを見出した。彼の言動には、面倒見の良い親分肌の性格が感じられた。そこでディレクターを通じて、役者さんに次の話をしてもらった。

「この絵を買うことで、あなたが画家を育てることにつながるのですよ」

これを聞いた伊吹さんの購買意欲が次第に前向きになっていき、最終的に、気に入った一枚の絵の購入の契約をするに至ったのである。

まず相手の一連の言動から、その人となりをできるだけ正確に分析し、余計な情報を取り除いて、シンプルなモデルパターンにした。それは、春日さんでいえば「質素・倹約化」であり、伊吹さんであれば「男気・親分肌」である。そして過去の事例と付き合わせながら、今、何をするのが効果的なのかを考えたわけである。

▼客の性格や行動パターン別の攻略法

ビジネスでも客にどんなアプローチをすればよいか迷った時は、まず相手の性格や行動パターンを見抜き、シンプルな形にしてみることだ。

例えば、「疑い深い性格」の相手であれば、信頼関係をつくりたいばかりにへりくだり過ぎて、「お世辞を言う」「プレゼントをあげる」といったあからさまなヨイショ行為をすれば、逆に「何か、裏があるな」と勘繰られて、さらなる疑念を増すだけである。

とすれば、この相手には、こちらの腹にはイチモツもないことを伝えるために、自らの失敗談など恥ずかしい情報をわざと切りだしたり、デメリット情報などを先に開示したりする必要がある。

逆に、相手が心に垣根のない人であれば、デメリット情報は先に出す必要はなく、相手の心がさらに開くようなポジティブな会話をして、何でもいえる信頼関係から築くようにすることが先決になる。

現状分析からシンプルなモデル化をして、過去にストックされた経験値からアナロジーする。これにより、相手を誘導するためのベストな対処法が見えてくるものなのだ。

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