ケチなオードリー春日が高額品を……

冒頭で紹介したような詐欺や悪質業者らは次々に電話をかけ、失敗や成功を繰り返して経験値を数多く積むことで、どうすれば相手の心を最短距離で誘導できるかのアナロジー能力に長けている。違法行為を褒めることは絶対にできないが、これまで私は様々な悪質な勧誘業者の手の内にあえてのり、ルポしてきたのでそのことを痛感している。

また、私はこうしたルポの積み重ねによって、詐欺や悪質商法の手口について、人よりも多くの経験を積む機会に恵まれるとともに、おかしな話だが、知らず知らずのうちに、彼らの持つアナロジー能力も体得するようになった。

私はしばしば詐欺や悪質商法の手口で芸人や役者をドッキリでひっかけるドキュメント・バラエティ番組の監修や解説を依頼されることがある。その時にこうした経験が役立つことがある。

番組のひっかけ企画でよく採用されるのが、絵画商法だ。これは「絵を見るだけでいいから」といって、販売会場に連れ込み、一通り絵を見終わった後、気に入った絵を言わせて、なし崩し的に商談を進める手口だ。

▼相手の特徴や性格を逆手に取る

たいがいの芸能人は思いもよらない事態に購入に対して躊躇する。

そこへ悪質な販売業者になりきった役者さんが見事な話術で契約を迫るのだが、それでも相手が購入に前向きにならず、こう着状態に陥る時がある。そこで番組監修担当の私が過去の経験からアナロジーして、その事態を打開する方法をアドバイスする。

例えば、お笑い芸人・オードリーの春日俊彰さんの場合。ご存じの方も多いと思うが、彼は無類のケチである。有名人になった後も、家賃数万円の安いアパートに住んでおり、解説ブースにいた相方の若林正恭さんも、「あいつはケチだから、家賃より高いものは買わないよ」と言っていた。

実際、春日さんは最初、絵の購入には前向きではなかった。ただ私は、テーブルに置いてある飴を次々に頬張り、つがれたアイスコーヒーをすべて飲むという彼の行動に着目した。「もらえるものはすべてもらいたい」という性格なのだろう、と推測できた。

ケチは、よい表現をすれば「節約化・倹約化」である。払うお金は少なくして、堅実にお金を貯めたいタイプだ。そこで、私が思いついたのが、「絵を買ってホテルに貸し出しして、定期的に報酬を得る」というトークだった。これは過去に実際にあった詐欺事例から、アナロジーした方法である。

騙し役の役者さんに春日さんに対して、次のように言ってもらうことにした。

「最初に絵の購入代金としての数十万円を持ち出すことになりますが、ゆくゆくはホテルなどへの貸し出しでお金が入るので、最終的にはお金が増えることになりますよ」

すると、あれだけ後ろ向きだった春日さんは「それはいい話だね」という表情を浮かべ、購入に前向きになったのだった。