日本に足りないのは40代の「中年ベンチャー」

対談は東京・六本木にあるWiLの東京オフィスで行われた。「シリコンバレーのカフェみたいなサロンのような空間をつくりたかった」(伊佐山氏)。

【入山】僕と伊佐山君は高校の同級生で、1972~73年生まれの団塊ジュニア。僕たちより若い世代はおもしろい人が多く出てきていますが、団塊ジュニアは数のわりに存在感が薄い。それについてはどう思いますか?

【伊佐山】大学の同期と話していると、みんな居心地がよさそうですよね。家族がいて、仕事でもそれなりのことをやらせてもらっている。そうなると、外で勝負したくてもできないのかも。

【入山】でも、伊佐山君も相当に恵まれた環境にいたわけですよね?

【伊佐山】僕は居心地がよくなりすぎると危機を感じる性格なので、飛び出しました。統計で見ると、アメリカは40代のベンチャー経営者が多い。日本も中年ベンチャーが増えてくればおもしろいのに、という思いはあります。

【入山】日本で中年ベンチャーが盛んになるにはどうすればいいでしょうか。

【伊佐山】一つ考えられるのは、若い起業家とのマッチング。若い起業家の中には、アイデアや技術力があるけど、大企業でビジネスをした経験がなく、名刺の渡し方一つよくわからないという人がけっこういます。そういう起業家と組み合わせればシナジーがある。

【入山】出口治明さんと岩瀬大輔さんのライフネット生命モデルですね。ただ、大企業の人は出る気になるかな。

【伊佐山】ベンチャー企業がいま年収1000万円もらっている大企業の人を採りたければ、同じ金額を払い、さらにストックオプションをつけてやる。そういう形でベンチャーに入り、成功して億万長者になる事例がいくつか生まれてくればおもしろい。身近なところでロールモデルができれば、一気に波が起きる可能性もあります。

【入山】最後にお聞きします。組織から飛び出してやっていく場合に、必要なスキルって何だと思いますか。

【伊佐山】一つあげるなら、コミュニケーション能力でしょうか。ビジネススクールに留学したとき、まわりはみんな優秀な人たちばかりで、最初は相手にされませんでした。でも、パーティーを企画して無理やりみんなと仲良くなった。先ほどの話とも関係しますが、ネットでいくら人とつながっても意味がありません。恥をかいたり嫌な思いをしながらも、人とつき合っていくことが、最終的には自分を活かすことにつながります。日本やシリコンバレーといった地域に関係なく、これはどこでビジネスするうえでも大切です。

WiL代表 伊佐山 元(いさやま・げん)
1973年生まれ。東京大学法学部卒業。スタンフォード大学MBA取得。日本興業銀行、米大手ベンチャーキャピタルDCM本社パートナーを経て、2013年より現職。著書に『シリコンバレー流世界最先端の働き方』。

早稲田大学ビジネススクール准教授 入山章栄(いりやま・あきえ)
1972年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。米ピッツバーグ大学経営大学院博士号取得。三菱総合研究所、ニューヨーク州立大学助教授を経て、2013年より現職。著書に『世界の経営学者はいま何を考えているのか』。
(村上 敬=構成 宇佐美雅浩=撮影)
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