ゲーム理論という学問領域については、読者の皆さんも聞いたことがおありだろう。複数のプレーヤーが相手の出方を予想しながら自分の利益を最大化しようとして動いた際の様々な結果を簡単にモデル化し、そのモデルをもとに経済現象はもちろん、核戦略から生物進化までを分析する学問の手法である。

今回紹介する『国債パニック』は、そのゲーム理論を使って、国債価格が暴落する、つまり日本政府が財政破綻を起こすタイミングを予測し、それに対する個人の備えと政策提言を行っている。

金融や財政の専門家ではない著者がこの主題に挑むのは、今日では世界の主要国の財政問題は、投機目的で国債を大量に購入するヘッジファンドの存在を抜きにしては理解できないからである。そして、財政破綻を避けたい日本政府と、日本国債の空売りを仕掛けて財政破綻を起こし、大儲けをしたいと考えるヘッジファンドの戦略的な位置関係は、確かにゲーム理論的だ。

本書の核心にあるのは、2020年頃に日本の財政状態が破綻同然になることがほぼ確実だとわかっている以上、ヘッジファンドをはじめとする投機集団――いや、まっとうな日本の金融機関であっても――は、それよりもずっと前に売り抜けようとするだろうという、至極まっとうな読みである。そして著者は、いろいろな条件から、破綻のXデーは、今年の秋から年末にかけてであると予測する。

この分析には(予告したタイムリミットが迫っているせいもあって)私は首肯するものではない。

この世界には投機資金よりは地味な投資資金のほうが多く、そして欧米が経済のみならず政治的にもボロボロの今日、日本国債は投資先として、そう悪くはないという簡単な事実を見落としているのである。年金基金その他の巨額資金が追随しなければ、ヘッジファンドといえども無力なのだ。

このようにグローバル金融事情の分析としては甘さがある本書だが、それでも数多い類書に比べれば、読む価値はずっと高い。投機集団についての認識は正確(貪欲であっても、万能ではない)だし、財政破綻についてこれほど真面目に考えている本はほかに知らない(敗戦でけっきょくは紙クズになった戦前の国債を、日米戦争前夜に国民に売りつけるために政府が各町内会に配った国債PRのための文書まで発掘している!)からである。

何より、財政破綻後の日本再建のための提言が、どれも優れている。例えば「日本国憲法を活かして金融立国を!」などは、今のご時世から大きくずれた卓見である。冷静な悲観論の底に、温かい眼差しが宿っているのが感じられるのだ。