試合を回避したい藤井寺に雨が降った

仰木近鉄、森西武、上田オリックスが三すくみになり、かつてない激しいデッドヒートを演じていた。

仰木は4連戦を3勝1敗で乗り切りたいと考えていた。そうすれば、西武に0・5ゲーム差まで迫れるからだったが、目算が狂った。

初戦(9月25日)は近鉄打線が西武先発の郭泰源を滅多打ちにし、1回3分の1でKO。守っては山崎慎太郎が完投勝利を挙げ、13対4で圧勝したが、第2戦(9月26日)は近鉄のラルフ・ブライアント(41号)と、西武の清原和博(31号。32号)のアーチ合戦になり、6対8で敗戦。第3戦(9月27日)は近鉄・阿波野秀幸と西武・渡辺智男の投げ合いになり、9回に阿波野が西武に3点を奪われ、0対4で敗戦。ゲーム差は3・5に広がり、3位に転落した。

この時点で、西武が残り12試合を6勝6敗の五分だったとしても、勝率は5割8分2厘。近鉄がそれを上回るには、11勝3敗という驚異的な成績を残し、勝率を5割8分4厘にしなければならなかった。

オリックスも終盤に入り、好調を持続させており、侮れなかった。近鉄にとっては、西武とオリックスの直接対決が8試合もあることで、かろうじて自力優勝の可能性を残したのであった。

そのため、第4戦(9月28日)は何が何でも負けられなかった。仰木の不安材料は、西武の先発が渡辺久信だったことである。近鉄打線は渡辺久信を大の苦手にしており、ここまで7連敗と手も足も出なかった。

この試合を回避したいと仰木が考え始めたころ、藤井寺に恵みの雨が降った。大阪管区気象台によると、降水量は次のように微量である。

午前11時台  4.0ミリ
午後0時台  2.5ミリ
午後1時台  3.5ミリ

午後2時以降はまったく雨が降っていない。その日はナイターで、プレーボール予定時刻は午後6時。

しかし、仰木の意図を即座に理解した近鉄の前田泰男代表は、こんな珍妙な言い訳を考えだした。

「グラウンドを覆っていたシートが西風でめくれ上がり、雨が染み込んでしまった……」

午後2時、大阪の新阪急ホテルで中止の一報を受けた西武監督の森祇晶は、苦虫を監督噛み潰したような顔になった。

「きっと藤井寺だけ雨が降っとるんやろ」

藤井寺球場まで、直線距離でわずか15キロ。梅田のホテルから望む空はコバルトブルーに染まっていた。

結局、それ以降、試合開始予定時刻の午後6時まで、雨は一滴も降らなかった。