言語の壁を超える「対人交渉力」

しかしビジネスには、世界中で共通する「普遍的な側面」もあります。「普遍的な側面」の何か1つについて強みを持っている人は、ある意味「グローバル人材」に近いといえるかもしれません。そうであれば、(逆説的ですが)そのような強みは日本国内でも培える、ということになります。

たとえば10年近く前になりますが、私はアメリカで、ある日本の大手メーカーからMBAに派遣されてきた人と知り合いになりました。その人にとっては、生まれて初めての渡米体験でした。

アメリカは車社会ですから、何よりも先に車を手に入れる必要があります。しかしアメリカのディーラーは高い価格をふっかけてくることもよくあるので、交渉は油断なりません。そこで私は英語が苦手な彼がディーラーに行くのに付き添うことになりました。いざ現場に行くと、英語はそこそこしゃべれても「交渉下手」な私はまごつくだけ。ところが、驚いたことに、彼は片言の英語を使ってディーラーの社員と自ら交渉をはじめたばかりか、粘りに粘って結局は格安の値段で車を手に入れることに成功しました。現地人でさえ難しい交渉事を、アメリカに来て2日目の人が成し遂げたのです。

その人は派遣元の日本企業では国内営業が長かったそうです。おそらくその過程で、「有利な条件を引き出せる優れた交渉能力」を身につけたのでしょう。彼の能力は、おそらく中東諸国でもアフリカでも、言葉や文化の壁を乗り越えて通用するはずです。私はこのとき、「対人交渉力」という世界どこでも重要な能力を持つ彼のような人こそ、まさに「グローバル人材」だと思いました。