引く手あまたの地域専門家という道

逆に、ある特定の国や地域に詳しいスペシャリストを目指すのも1つの方向性でしょう。今の日本企業でいえば、ベトナムやミャンマー、インドといった新興国の事情を知り尽くしている人材です。また、欧州は日本企業の営業が苦戦しがちな地域ですから、そのうちどれか1カ国と太いパイプを持ち、文化や社会事情、ビジネス慣習までよく理解している人材は、おそらく引く手あまたでしょう。

そうした人材の育成に力を入れているのがサムスンです。同社には「地域専門家制度」があります。この制度は、業績優秀な若手を選抜して1年間海外へ派遣し、徹底的に現地に溶け込ませ、その国の人間になりきらせることを目的としています。対象国はアジア、欧米から中東、アフリカと世界各国に広がっています。サムスンでいう地域専門家のような人材を育てることも、日本企業が目指すべき1つの方向性といえるでしょう。

図を拡大
世界で通用するのはどんな人材?

このように考えると、世間で流布している「グローバル人材」像というのは定義がはっきりせず、他方でその定義を深く考えていくと、これからのビジネスで真に望まれる人材は2つの方向性に絞られるのではないでしょうか。

第1に、「対人交渉力」のように世界中で普遍的に有用な強みの何か1つを身につけている人材です。大事なことは、この力は国内のビジネス経験でも十分に培うことができるのであり、敢えて海外で修業する必要はない、ということです。第2に、そうでなければある国・地域に徹底的に詳しいスペシャリストになることです。いずれにせよ、「中途半端なグローバル人材化」が1番役にたたない、といえるのかもしれません。

(構成=荻野進介 写真=Getty Images)
【関連記事】
ここが間違い! わが社の「グローバル人材」戦略
昇格300人、降格150人! キヤノン流人事制度
サムスンも注力する人材教育システム
「北欧企業 イケア、H&M」高収益の内側
日本企業は「グーグル化」できるのか