男性部下の育休を無視した上司

最初の部にいたときのあるミーティングは、とくに印象に残っている。みんなが会議室に入って席につくまでの2、3分間、私は奥さんがまもなく第1子を出産する予定の同僚と少し話をした。私自身が新米ママだったので、妊娠後期の大変さや出産までの不安について彼に言葉をかけた。そして「生まれたら育児休暇をとるの?」と、聞いた。この組織には子どもが生まれたら父親は1週間、有給休暇をとれるという規定があることを知っていたからだ。彼は微笑んで一瞬答えをためらった。そのとき、彼の上司がテーブル越しに小ばかにしたような言葉を投げつけたのだ。「育児休暇だって? おまえの育児休暇をやるよ。葉巻を1箱な」、こうしてドアは閉じられた。その同僚に対してだけでなく、育児休暇の規定を利用したいと思ったかもしれない他のすべての人々に対して閉じられたのだ。

ワーク・ライフ・バランスに関する多くの規定と同じく、育児休暇は上司の承認が必要とされていた。だが、このマネジャーは、別々の領域という考えのために、1週間の休暇と引き換えに、自分の希望を尊重してもらった社員とその家族、それに最終的にはその組織が得たかもしれない利益を考慮できなかったのだ。

そして、その2年後、私に2人目の子どもが生まれた。私は6週間の育児休暇の後、再びフルタイムで働き始めたが、疲労困憊したうえ、生まれて間もない子どもと長時間離れていたらストレスがたまることにも気づいた。当時私が手掛けていた仕事の多くは自宅からでも職場と同じかそれ以上の効率で、しかも職場の誰にも迷惑をかけずにこなせることが明らかだった。

そこで私は上司のところに行って、今後6カ月の間、週に2日は自宅で仕事をさせてほしいと頼むことにした。当の私が少し驚いたのだが、上司はそれに同意してくれた。私の上司が人の考えに進んで耳を傾け、相手を信頼し、私のニーズとその部のニーズの両方を満たすために「実験」することをいとわなかったおかげで、私の生活はもちろん、家族の生活も変わった。子どもと過ごす時間が週に2日増えたことで、私はその時間を大切にした。フルタイムで会社に出ていたときよりはるかに幸せで健康だった。ストレスが減ったことで、新たな情熱を持って仕事に取り組むことができた。

当時フルタイムの学生だった夫は、勉強に充てられる時間が増え、ワーク・ライフ・コンフリクト(仕事と個人生活の両立が難しいがゆえの葛藤)が減った。重要なポイントとしては、私はその上司をそれまで認識していたより多くの面を持ち合わせている人ととらえるようになり、彼に対する尊敬の念が深まり、組織に対してより強い責任感を感じるようになったのである。

(ディプロマット=翻訳 Getty Images=写真)
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