「今日より明日をよくしよう」

住友商事 代表取締役社長 
中村邦晴氏

僕は部長時代、20歳も年下の入社5~6年目の部下から「怒られた」ことがあった。僕が「やろう」と言えば、部下は「やりましょう」と応えてくれる。それは上司が言うからなのか、それとも本心からそう思うのか。飲み会の場で聞いたとき、部下たちが怒り出したのだ。

「僕らのことを、部長が間違っていても黙って従うような人間だと思っているのですか。僕らは部長がやろうとしていることは正しいと思うから応えた。おかしいと思ったらおかしいと言う。部下をもっと信用してください」と。この部下たちとだったら一緒に仕事ができる。彼らがいる限り大丈夫だ。僕は心から思った。思いをぶつければ、思いが返ってくる。そうやって、人と人のつながりが生まれる。入社40年、僕の人生はその都度、「思いの理解者」と出会いながら、1つ1つ仕事を積み上げてきたように思う。

1984年、34歳でカリブ海の国プエルトリコのマツダ車の輸入代理店プラザ・モータースに勤務したときは、「この人たちの言うことなら何でもやろう」と思える上司と出会えた。プラザ社は年間1万2000台を販売し、日本車では2位。夢は1位のブランドを抜くことだった。「やってみよう」。僕は従来の1.7倍、月1700台のオーダーを4カ月連続で仕かけた。他社も輸入台数を拡大。熾烈な競争が繰り広げられたが、プラザ社は思い切ったインセンティブ(販売奨励金)策を打ち出し、月間2602台とダントツの販売新記録を打ち立てた。

祝福のFaxが沢山届いた中で2人だけ、違うコメントを送ってきた。プラザ社の前任社長と僕の前任地アメリカの輸入代理店の社長だった。「おまえ、よくぞここまでオーダーしたな」。少しずつ伸ばすより、一気に攻めよう。プラザ社ならできる。その気構えをオーダー台数で示した。2人の上司は販売記録の裏にある一連の思いを理解してくれた。それは何より心の支えとなった。実際、その内の1人との縁が貴重な経験を積ませてくれることになるが、それは後述する。