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世界経済の行方に不透明感が漂う中、日本企業は稼ぐ力を回復し、日経平均株価は34年ぶりに最高値を更新しました。その流れを早くから予測し、日本企業、日本経済へのエールを送ってきたのが、 “伝説のコンサルタント”堀紘一さんです。あまたある企業の中から「伸びる会社」をいかに発掘したか、また、見逃してしまいがちな経済ニュースの重要ポイントはどこか。今回は、泥沼のウクライナ侵略を経てロシアがどう変化するか、また不動産危機が表面化した経済大国・中国の将来はどうなるか、世界を知る堀さんの見立てをお伝えします。

ウクライナの戦況が“台湾進攻”を食い止めている

ロシアによるウクライナ侵略が始まってから2年半が経過しました。圧倒的な陸軍力を背景に、当初は電撃的な「ウクライナ占領」をもくろんでいたロシアのプーチン大統領ですが、欧米諸国に後押しされたウクライナ軍が予想外の頑張りを見せ、最近はロシア西部への越境攻撃が行われるなど戦況は泥沼化。ロシアは引くに引けない状況に追い込まれています。

これを受けて世界情勢も変化の兆しを見せています。

たとえば中国です。今の中国は深刻な不動産不況に直面し、若者の就職難などもあって絶望的な状況にあります。これを挽回するため、台湾侵攻を成功させたいともくろんでいたのが習近平指導部です。しかし、仮に中国が台湾に侵攻したら、現在のロシアと同じ目に遭うのは確実なので中国としても自制せざるをえません。これは、ウクライナが戦ってきたおかげで起きた変化といえるでしょう。

その中国では、大卒者の半分しか就職できないという悲惨な事態に直面しています。エリート校の北京大学や清華大学の卒業生でさえ、就職が難しくなっていると聞いています。そのため、「親に就職」する若者が増えているのだとか。つまり、実家でそのまま暮らし、親がかりの居候になるのです。

私が思う日本的な価値観では、若い二人が恋に落ちたら二人で働いてマイホームを手に入れようと考えるでしょう。ところが現在の中国では、独身時代に家を手に入れていない男性は女性から結婚相手として選んでもらえないのだそうです。すると結婚できない男たちは親の家に居候を続けるしかない。こうして、さらに少子化が進んでいくのです。

中国が不動産不況で抱えた負債の山

中国ではマンションの取引形態が日本とは違っていて、物件を建てる前にお金を全額支払う仕組みになっています。先払いで集まったお金を、不動産会社は次のマンションの開発資金に回すのです。不動産会社が経営破綻し自転車操業が止まれば、工事も止まります。お金を支払ったけれどマンションが建たないので、鉄筋がむき出しになっているマンション建設予定地の前にテントを張り、そこで何年も暮らしている人がいるようです。

不動産バブルがはじけたことによる中国全体の負債額については、いろんな説があるのですが、一番少ない試算で2000兆円といわれています。しかし、地方政府の負債なども合わせた最も多い試算によると、2京円となります。「京」という単位にはあまりなじみがないと思いますが、ご存じのとおり「兆」の1万倍です。まさに天文学的な数字です。

2024年のアメリカのGDPは27.36兆ドル(3830兆円 : 1ドル140円で計算)で、中国のGDPは17.66兆ドル(2472兆円 : 同)、日本は4.213兆ドル(590兆円 : 同)です。ということは、最も少なく見積もった場合でも、中国の負債は自国GDPの80%に当たり、日本のGDPの3.4倍に相当します。利息を支払うだけでも負担が重すぎ、中国経済が壊滅状態にあることがわかります。

これだけ巨額の負債を抱えてしまうと、当然、中国の銀行の倒産が予測されます。ところが、国営銀行に対して国家がお金を補填するので、倒産はさせない。しかしながら、この後は、地方政府が地元の銀行を支えられなくなり、地方銀行が大量に倒産するということが考えられます。

私の読みでは、中国経済は少なくともあと30年は立ち直れないのではないでしょうか。日本もバブル崩壊から立ち直るために「失われた30年」といわれましたが、それよりも事態はずっと深刻ですから。

戦争が終結したらロシアは30カ国に分裂する

ロシアのもくろみ通りにはいかなかったウクライナ侵略ですが、今後のシナリオはどうなるでしょうか。

たしかにロシアはウクライナ東部地域を占領しています。しかし、たび重なる戦闘により広い範囲で町や農地は破壊され尽くしています。仮にロシア領土になったとしても、膨大な量の瓦礫を撤去し、おびただしい数の地雷を処理しなくてはなりません。しかし、ロシアにはもうそんなお金はないでしょう。ロシアにお金を貸してあげる国もありません。

戦後、ロシアは経済がたちゆかなくなり、中央政府は求心力を失って、遅かれ早かれ30ほどの国に分裂するのではないでしょうか。

というのも、ロシア──正式にはロシア連邦──という国は民族や宗教、言語、文化が異なる人々の集合体であり、おおむね30ほどの地域に分類できます。西はロシア正教を信仰しピロシキを食べている人々から、東は仏教やシャーマニズムを信仰しギョーザを食べている人々までいて、そもそも統合するのは難しい。実はプーチン大統領がウクライナの戦地に送り込んでいるのは、まさにこの東方に住む低所得層の若者たちです。

第2次世界大戦後、バルカン半島西部に「南のスラブ人国家」であるユーゴスラビア連邦が成立しました。しかし民族、宗教、言語の違いが大きすぎて、建国の父であるチトー大統領の死後、スロベニア、クロアチア、ボスニア・ヘルツェゴビナ、セルビア、モンテネグロ、コソボ、北マケドニアの国々に分裂してしまいました。「北のスラブ人国家」であるロシアも、こののち同じ運命をたどるのではないか、と私は考えます。

このたびのウクライナ侵略戦争の終結後、ロシアは30ほどの国々に分裂すると申し上げました。さまざまなタイプの国が成立するでしょう。その中で、簡単にいえば「西側諸国と仲良くした国」が生き残っていくのではないかと見ています。きっと100年後には、「わが国で一番偉かった建国の父は、西側から何倍もの援助を取りつけたこの大統領だ」などと評価されているのではないでしょうか。

(構成=今井道子)