金曜日の午後に一人で図書館に籠って自習
ただ部活テニスに加えてオーストラリアのトップジュニア選手としても活動するとなると、当初の想定以上に平日まで拘束され、課題提出をこなすだけでは授業に後れを取ることが時に出てきた。
「本人がそう感じた時は、他の生徒がみんな遊びに繰り出す金曜の午後、一人で学校の図書館に籠って自習していたようです」
自らを律する気持ちの強さは、もはや土方家の家風のようなものになっていたのだろう。
長女の勝麗はハイスクール卒業後、学費全額免除の奨学生として米ハーバード大に進んでいる。
「ほかにも学費免除で留学できる海外の大学にいくつか合格していましたが、母親と同じ大学で学びたいという気持ちが強かったんでしょうね」
ハーバードでは神経生物学を専攻。水泳部の選手としても活躍しながら、同学部を主席で卒業した。土方氏も列席したその卒業式でゲストスピーチを行ったのは、映画監督のスティーブン・スピルバーグだったという。
長男の神優は、初等・中等教育の大部分を日本語以外の言語で学んだ者を対象とし、すべての講義を英語で行う東大教養学部のPEAK(Programs in English at Komaba)に、これまた学費全額免除で進学。国際環境学を専攻した。
「やはり自分の生まれた国だし、日本がどんなところなのかを東大に行って確かめたかったんじゃないでしょうか」
米国の大学テニスで腕を磨いてからプロへ
オーストラリア移住後の土方家は家族間の会話こそ日本語だったが、子供たちに漢字の読み書きは教えていない。漢字まで覚えさせたのでは負担が大きすぎ、英語習得の妨げになるからだ。
「でも神優は日本に住むうちに興味を持って覚えたみたいで、かなり難しい漢字まで使いこなせるようになりました。今、子供たち3人の中で、自分の名前を漢字で書けるのは神優だけです」
PEAKの卒業式で、神優は卒業生総代として答辞を述べた。土方氏は、長男の卒業式にもシドニーから駆け付けている。
「勝麗の時も同じでしたが、式が終わると神優のところにいろいろな友達がやってきては楽しそうに話している。そんな様子を見て、『いい大学生活を送ったんだな』とうれしくなりましたね」
次男・凛輝のジュニア年代における国際舞台の主だった戦績は、2018年全豪ジュニアでのシングルス8強と同年ウィンブルドンジュニアでのダブルス4強、2019年全米ジュニアでのシングルス16強。世界的なトッププロを目指す選手として悪くない成績だが、父子はハイスクール卒業後すぐにプロ転向するのではなく、まずはアメリカの大学テニスで腕を磨く道を選んだ。

