選手が笑っているオーストラリアの練習風景
「何度かアカデミーの練習を見学しましたが、オーストラリアって日本みたいな基礎技術を固めるための反復練習っていうのはまずやりません。肉体的、精神的に強い負荷をかけるようなトレーニングも見たことがない。そもそも、全体の練習時間からしてせいぜい2時間ぐらいとかなり短いんです。ウォームアップをやってちょっと打ち合ったら、すぐ選手同士で試合形式のポイント勝負です。実戦でのぎりぎりの場面を想定したら、選手を追い込む練習もどこかで必要なはずなんですが、少なくとも私は目にしたことがない。そこが不思議です」
むしろその逆の光景なのだという。
「練習中でも選手がしょっちゅう笑ってる。笑えるというのは精神的に余裕がある状態なので、逆に吸収しやすいのかなと思ったりもするんです。だからオーストラリアからは型にはめられていない、キャラクターの立った選手が次々に出てくるのかもしれませんね。でも私は和洋折衷というか、客観的に見て凛輝に足りない技術があるなと思ったら、アカデミーのコーチにお願いしてそこを反復練習するメニューを組み込んでもらっていました」
姉兄の姿を見て育ったせいか凛輝は勉強も好成績で、小学校卒業時には兄も進んだ公立ハイスクールに入れるだけの学力を有していた。だが彼は、兄の後を追わなかった。
「オーストラリアでレベルの高い公立ハイスクールに進む生徒は、親が教育熱心なインド系や中国系の子弟がほとんどなんです。そんな画一的な顔ぶれなのを、兄の学校での集合写真でも見て気づいたんでしょう。『ガリ勉ばっかり集まるようなところはつまらない』と学費全額免除の奨学生試験に合格して、オーストラリア最古の私立ハイスクールとされるキングススクールへ進学しました」
遅れた授業は金曜の午後に学校の図書館に籠って自習
キングススクールを選んだのは、様々な個性を持つ仲間を求めたことだけが理由ではない。合宿や大会遠征などで凛輝が授業を欠席する場合、キングススクールは課題をインターネット経由で送ってくれ、それを仕上げれば出席とみなす、と約束してくれた。そこまでのサポートは、公立校では望めなかったのだ。
凛輝はナショナルアカデミーで定期的なトレーニングを積みながらキングススクールのテニス部にも所属し、日本でいえば中学校低学年の年齢で他校の17、18歳の大男たちを翻弄していた。
「試合前は、凛輝のことを知らない相手選手やその親が完全にバカにしているんです。ところがいざ試合が始まるとボコボコ打ち込まれて、全然ポイントを取れない。『なんであんなチビに負けてるんだ……』と途中で泣きが入る選手も珍しくなかったですよ」

