すぐにプロにならずに大学へ

もちろん、シニアレベルでのグランドスラム制覇という二人の最終目標が揺らいだわけではない。ただ、10代でプロ転向する選手が大多数のヨーロッパやアジアと違い、アメリカには大学経由でプロになって活躍する選手が何人もいて、海外からも実力派の留学生選手が集まってくる。当然、競技レベルが非常に高いだけでなく練習環境も充実しており、国際的に名の知れたテニスアカデミー並みの施設を有している大学がいくつもある。

「できるだけ早くプロ転向するというのもひとつの正解なんですけど、テニスだけが強くなればいいとは私も凛輝も考えていませんでした。選手生活が終わった後の人生もあるわけだから、たくさんの選択肢を持っていた方がいい。そのためには、学問や大学での人間関係が大きな助けになります。それに私自身、いろんなことをやって来た人間なので、我が子にもたくさんの経験を積んで『人生ってこんなに楽しいんだ』と実感してもらいたかったんですよ。最終的にどれを選ぶかは、本人が決めればいいことですから」

2019年、全米オープンジュニアに出場
写真提供=土方誠さん
2019年、全米オープンジュニアに出場。当時18歳。凛輝は、この直後にノースカロライナ大学に入学する。

2020~21年度の全米大学テニス最優秀選手賞に選出

ハイスクール卒業の前年、テニス部の全米ランク、選手の顔ぶれ、コーチ陣、施設などの観点からアメリカの5大学をピックアップした。そして凛輝が実際に各校を訪れ、コーチとの面談や施設の見学を行ったうえで選んだのは、ノースカロライナ大学だった。同大には、ビジネス専攻コースの学費全額免除奨学生として迎え入れられた。もちろん、凛輝のハイスクール時代の成績も認められてのことだ。同大のビジネス部門は全米でも高い評価を受けており、またアメリカの大学のスポーツ部員は、定められた水準以上の学業成績を毎年クリアしないと試合に出場できない決まりになっている。

テニス部では、1年生から主力の一角を担った。2年時にはチーム対抗戦である全米大学インドア選手権の同大優勝に貢献し、2020~21年度の全米大学テニス最優秀選手賞『オールアメリカン』に選出されている。

「あの年の凛輝は、全米大学インドアとほぼ同じ時期に開催される全豪オープンの主催者から、地元選手枠のワイルドカードで本戦出場できる可能性があることを伝えられていました。事前にテニス部のヘッドコーチへ相談すると、『どちらに出場するかは、君の判断に任せるよ』と言ってくれたそうです。テニス選手としての名誉や将来を考えれば、普通は全豪を取りますよ。だけど凛輝は全豪を蹴って、大学インドアを選びました。ほら、あいつラグビーに夢中だったでしょ? チームで戦うのが好きなんですよ」

大学インドア優勝を置き土産代わりとして、凛輝は3年生進級を待たずプロへ転向する。

そのわずか1年半後の23年全豪ダブルスで、凛輝は父子の悲願だったグランドスラム制覇を実現させてしまったのだ。