息子の全豪優勝後、燃え尽き症候群に

「実は凛輝の全豪優勝後しばらくの間、燃え尽き症候群みたいになっちゃいましてね……。3人の子供たちはそれぞれの形で文武両道を貫き、凛輝にいたってはグランドスラム大会ウィナーにまでなってしまった。シドニーへ一家で移住した時に思い描いていたことはとりえず全部達成した、親としてはやり切ったのかなと……」

もっとも今回のウィンブルドン準優勝までの道程については、いたって冷静に見守っていたという。

「いつもの感じで観戦していましたね。試合中凛輝が常に笑顔を浮かべていたのは、ダブルスではまず楽しむことを大事にしているあいつらしいなと思いました。ダブルス専業でもない選手が大舞台で緊張もせず思いきって立ち向かってくるのは、対戦している相手にしてもいやな感じだったんじゃないでしょうか。でもダブルスの時はよかったものの、サーブはやっぱり早急に改善したいですね。今年のウィンブルドンのシングルスではサービスゲームの弱さを突かれて、2回戦どまりでしたから。世界ランク50位以内に常に入っている選手になるには、この1、2年が勝負だと考えています」

父としての感慨というより、すっかり幼少期からのコーチの視点に戻っての分析なのである。息子の偉業も二度目となると、客観的に受け止められるようになるらしい。

センターコートの家族席で準優勝を見届けたのは姉と兄

アカデミーの仕事があるため、土方氏は今回のウィンブルドンもいつも通り、シドニーの自宅でテレビ観戦していた。凛輝のダブルス準優勝の瞬間をセンターコートのファミリーボックスから見届けたのは、姉の勝麗と兄の神優である。仕事のスケジュールを調整して、急遽イギリスまで駆け付けたのだ。

そろって学費免除だったとはいえ、この3人の子供たちを海外の大学に行かせるには生活費の仕送りだけでも相当な負担だっただろうが、それを賄ったのは土方氏の学生時代の稼ぎではない。日本での蓄えは、オーストラリア移住やテニスアカデミーの立ち上げ・維持のために費やした。子供たちを大学にまで行かせた原資は純粋に、彼が異国の地でテニス指導者、アカデミー経営者として稼いだ金だ。

「そこは、私の腕一本で家族を養ってきたという自負があります」

ただひとつ、心残りがある。

「日本のお父さんたちがよくこぼすセリフと同じで、もう少し子供と接する時間を取れていたらというのはありますね。特に上の二人に関しては。平日はアカデミーでの指導で夜遅くまで家に帰れなかったし、週末になると勝麗と神優は妻に連れられて水泳の大会に行き、私は凛輝とテニスの試合に出かけていました。なかなか長く一緒に過ごせないうち、あっという間に大学生になって海外へ出て、大人になってしまいましたから」