スマホやSNSの普及が英語本に及ぼした影響
少し年代が前後するが、2010年代に入ると、SNSの影響が爆発的に広がり、スマートフォンやタブレットを用いたYouTubeなどの各種サービス・アプリによる学習が一般化した。
「語学書はこのような社会状況の影響を受けやすく、紙の書籍の需要低下を危惧した時期です。ただ、意外にも本の売上は底堅く続いていきました。スマホやSNSのおかげで、英語学習へのハードルが下がったのかもしれません。実際、この頃から“やり直し英語”のブームが拡大したと感じています」
この時代に発売されていまも売れているのが、いずれも2011年に発売された『中学英語をもう一度ひとつひとつわかりやすく』(学習研究社)や『一億人の英文法』(ナガセ)だ。どちらも“学び直し需要”を牽引してロングセラーとなった定番本だ。
また、2018年に出版され35万部超えのベストセラーとなったのが、『英単語の語源図鑑』(かんき出版)だ。同書や、「中田敦彦のYouTube大学」でも紹介された2017年刊『海外ドラマはたった350の単語でできている』(西東社)は、先述した『英語ピクト図鑑』や『ラテン語でわかる英単語』(ジャパンタイムズ出版)といった、英語を感覚的に学ぶ本の“走り”と言えるかもしれない。
2010年代のトピックとして、もうひとつ忘れてはならないのは、大学受験で「英検」を筆頭にした外部検定試験(英検、TOEIC、TOEFL、IELTS、TEAP、ケンブリッジ英検など)活用の始まりだ。
先にも挙げたTOEIC関連の書籍群もあてはまるが、旺文社の英検対策シリーズなどの定番が、少子化にもかかわらず根強く売れ続けているのは、この「外検制度」と切り離しては考えられない。
コロナ禍に高まった「リスキリング熱」
2019年に始まった令和の時代、そして2020年代は、コロナ禍やAI技術の進展が大きな社会変容を強いてきたと言える。そのなかで「自己投資やリスキリングへの意識が高まった」と神山氏は指摘する。
特に、政府主導の教育訓練給付金制度も含めたリスキリングへの社会的な後押しは、2010年代に引き続き、「英語の学び直し」需要を喚起してきたことに加え、「もう一歩先へ進みたいという読者の増加につながっているのではないか」と神山氏は分析する。
2020年は先述の『英文法授業ノート』に加え、440ページという厚さの『英文法の鬼100則』(明日香出版社)が売れたという。
2021年は『読まずにわかる こあら式英語のニュアンス図鑑』(KADOKAWA)や『ネイティブなら12歳までに覚える 80パターンで英語が止まらない!』(高橋書店)、2022年は大学入試対策であるポラリスシリーズで知られる関正生氏の900ページ超の大作、『真・英文法大全』(KADOKAWA)がベストセラーとなっている。
神山氏は2020年代の傾向として、「なんとなくわかればいい」という感覚に満足しない中上級者向けの本が目立ってきたと分析する。『英語リーディング教本』で知られる薬袋善郎氏の『基本文法から学ぶ英語リーディング教本』(研究社)もそれにあてはまる。


