赤ちゃんの先天的な病気を調べる「出生前検査(NIPT)」を受ける人が増えている。検査前の「遺伝カウンセリング」では何が話し合われているのか。毎日新聞取材班『出生前検査を考えたら読む本』(新潮社)から、日本医科大学付属病院(東京都文京区)の一室で行われたカウンセリングの一部始終をお届けする――。

※本稿は、毎日新聞取材班『出生前検査を考えたら読む本』(新潮社)から一部抜粋・再編集したものです。

40代夫婦が受けた「遺伝カウンセリング」の中身

出生前検査を受けたカップルは、結果次第で妊娠を続けるかどうかという難しい決断を迫られる。正確な知識を得た上で少しでも冷静に意思決定してもらおうと、医療機関が検査前から遺伝カウンセリングを実施している。中絶方法などを伝え、時には重苦しい雰囲気になることもある。私たちは、ある夫婦が受けたカウンセリングに同行した。

病院の廊下
写真=iStock.com/tirc83
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2022年5月、私たちは日本医科大学付属病院(東京都文京区)を訪ねた。医局のインターフォンを押してから数分後、「お待たせしました」と、白衣姿の川端伊久乃医師が現れた。

川端医師は産婦人科医であり、大学の准教授(取材時は講師)も務めている。臨床遺伝専門医の資格をもち、出生前検査の遺伝カウンセリングを担当していた。私たちが、NIPTの遺伝カウンセリングの様子を取材したいと申し込むと、川端医師は、相談者の特定に至らないよう匿名記事にすることを条件に協力してくれた。

川端医師に案内され、エレベーターに乗った。たどり着いたのは、「特別診察室」という小部屋で、通常の産科外来とは別のフロアにあった。中には木目調のテーブルと茶色いソファーが並んでおり、さながら応接間のようだった。入り口のドアを閉めると中は静かだった。

医師「年齢的に受けたほうがいいよ」

ソファーには、落ち着いた雰囲気の夫婦が座っていた。私たちに顔を向け、会釈する。東京都内に住む妻(43歳)と夫(43歳)で、あらかじめ川端医師を通じて取材の許可を得ていた。

夫婦と向かい合うように、川端医師と病院の遺伝カウンセラーが腰掛けた。新型コロナウイルス感染症への対策が強化されていた時期で、4人ともマスクを着けており、表情は読み取りにくい。

「体調大丈夫? 午前中は赤ちゃんを見せてもらって元気そうで良かったです」

川端医師が笑顔で語り掛けると、夫婦は緊張気味にうなずいた。遺伝カウンセリングに先立って、通常の産科の診察を行い、母子の健康状態を確認していた。

妻は第2子を妊娠したばかりだった。第1子の出産では出生前検査を受けておらず、もともとNIPTのことを知らなかった。最近、地元のクリニックを受診した際、高齢の医師から「年齢的に受けた方が良いよ」と勧められたという。