捜査が進化すれば、犯罪グループも進化する
「仮装身分捜査の導入は遅すぎたくらいで現場の捜査においては強力な武器。部分的にかつ一時的には有効ですが、根本的な解決には他の対策も必要だと考えます。身分を仮装してたどり着けるのも指示役までで首謀者にたどり着くのは難しいでしょう。
仮装身分捜査が本格稼働して実行役や指示役クラスの逮捕は格段に進み、現在の手口は下火にはなると思いますが、特殊詐欺グループが海外に拠点を設けるなどしてより巧妙、地下に潜っていったように新たな手口や組織が出てくると思います。
個人情報が記載され、犯罪に利用されている『闇名簿』の流通を止めるための法規制、SNS上のバイト募集に厳格な審査を設けるなど民間の努力も必要で、警察だけの努力では根本的な解決にはなりません」

仮装身分捜査に潜む違法性のリスク
仮装身分捜査において、別人の身分証を作成することは公文書偽造罪に抵触するとされている。しかし、警察庁は刑法35条の正当業務行為として、公文書偽造の違法性は阻却されるという見解で今回、仮装身分捜査の導入を決めたという。
それでも、法律面で一抹の不安は残ると元警視庁幹部は言う。
「捜査官が仮装身分で対象者に接触した際に、その相手が犯罪を行うことが明らかな場合、犯罪意志の教唆、及び犯罪意志の助長を問われる可能性が残っている。仮に捜査対象側から訴訟を起こされた場合、どう対処するのか。捜査を指揮していた立場として心配だ」
勝丸氏も人権への配慮を強調する。
「捜査官が合法的に別人の身分証を持つことができますが、人権保障の観点からは濫用が懸念されると思います。犯罪者側も捜査官が合法的に偽の身分証を持っていることを前提に、新たな手口を必ず繰り出してくるので、警察はそれらへの対応も必要です。また仮想身分捜査の過程で犯罪を助長したり、別の犯罪被害を看過したりしないかが懸念されます」
さまざまな危険もはらむ仮装身分捜査。闇バイト組織と警察との本格的な戦いが静かに幕を開けた。
テレビ報道の現場で記者として主に事件取材を重ねてきたフリーライター。