夫がしてきた支離滅裂な提案
夫は自分で調停にやってきて、「妻と子の生活費は5万円で十分」という主張を繰り返しましたが、調停委員から、基準額が決まっているので5万円にはならないと説得されました。
すると今度は、「A子さんがマンションを汚したために資産価値が減った、その分を婚姻費用から差し引いていく」という支離滅裂な提案をしてきました。もっとも、そんな主張が認められた事例はなく、具体的にいくら資産価値が減ったかという資料も出せないため、調停委員が聞き入れることはありません。
数回の期日が空転した後、「弁護士に相談したらどうですか」と言われて、夫はようやく弁護士に依頼しました。すると、婚姻費用の金額は動かせないことを説明されたのか、ようやく夫は支払いに応じると言い出しました。
夫が月々約29万円の支払いに加えて、それまでの未払い婚姻費用相当額を払うことで合意ができたのです。
こうしてA子さんは長男と一緒に別居生活を始めることができました。両親と協力しながら、下町の実家で子育てをしています。
タワマンのメリット、デメリット
今回は、タワマンが絡む別居の事例をご紹介しました。
タワマンは周辺環境も含めた利便性の高さが魅力ですが、住んでみると意外な欠点を口にする人もいます。それは、「便利すぎて無駄がないことがつらい」という点です。
タワマンの近くには便利なスーパーや人気のカフェチェーンなど、需要の高い店舗が誘致されていることが多いです。それは当然メリットですが、利用する店や休日の行先の選択肢が限られていて、人工的で特殊な環境であるということもできます。
快適な生活環境を形作るのは、便利で真新しいものだけではありません。一見需要のなさそうなもの、古くて歴史のあるもの、そういった施設があって、好きな時に選んで利用できるという環境が、心にゆとりを生むのです。
このように、タワマン周辺はこれまでになかったタイプの街作りがなされているため、そこに住む人の心理も変わってきます。それが家庭問題と結びついた時に、A子さんのようにつらい経験をする人もいるということです。
行動範囲の広い人であれば問題ありませんが、専業主婦で家から出ることが少ない人や、子どもの場合は、心身に影響を受けることがあります。
そのため、弁護士の立場からは、タワマンが絡む家族問題は、他の環境とは違ったタイプのものが多いと感じています。