閉鎖空間でいじめを減らすには限界がある
第二に、いじめの定義が広いといっても、対策法の定義は「児童等」が行う行為に限定されている。苛烈ないじめでは、教員や保護者が加害者に加担することがある。例えば、保護者が自分の子を守るために、被害者について悪い評判を流したりする事例もある。
さらに、保護者の有志組織たるPTAも、非会員・未加入者の子どもをPTAが主催する学校施設を利用したイベントから排除したり、プレゼントの対象から外して、子どもを傷つけたりすることがある。
もちろん、対策法は、教員や保護者が児童等にいじめをさせない責務を負うと規定しているが、自らいじめに加担したり、PTAがいじめを行ったりする事例は強く意識されていない。学校内で活動する大人が、児童等に加害をした場合に対処する枠組みも作るべきだろう。
いじめ防止対策推進法は、10年の運用の中で、着実に成果を上げたといってよい。しかし、いじめの認知件数はいまだ膨大な数に上り、年間700件以上の重大事態も発生している。(編集部注:文部科学省の最新のまとめでは、2023年度は「重大事態」が1306件と過去最多となった。)
いじめ研究者として名高い内藤朝雄は、離脱が難しい閉鎖空間の設定は、苛烈ないじめを生じる危険を内包するという。閉鎖空間を維持したままでいじめを減らすには限界がある。だとすれば、いじめ対策は、「人間関係構築の自由をどうやって実現すべきか」という観点から考えていくべきだ。本書で指摘した問題以外にも、専門家は様々な課題を指摘している。まだまだやるべきことは多い。


