「犯罪型」と「コミュニケーション操作型」がある

いじめ防止対策推進法の目的は、第1条に掲げられている。具体的には、「いじめを受けた児童等の教育を受ける権利」を守り、「心身の健全な成長及び人格の形成」を支え、「生命又は身体に重大な危険」が生じることを防止することで、「児童等の尊厳を保持する」ことが目的だ。

では、この法律が防止しようとする「いじめ」は、どう定義されるのだろうか。大きく分けると、いじめには①犯罪型と②コミュニケーション操作型とがある。

①犯罪型のいじめとは、暴行・傷害、恐喝・強盗、脅迫、名誉棄損といった刑法犯に該当する行為だ。刑法犯である以上、重大な法益侵害であるという社会的な合意があり、その解決には、警察や司法が力を発揮しうる。

他方、②コミュニケーション操作型とは、からかい言葉や奇妙なあだ名呼び、些細ささいな悪口など、被害者を傷つけるコミュニケーションを指す。こちらは、犯罪や不法行為にはならないことも多いが、殴られるよりつらい経験になることもあろう。

概念の上では①と②は切断できるが、実際のいじめの現場では両者が融合する事例も多い。また、①犯罪には明確な定義があるが、②については、被害者がどんなことに傷つくかは文脈や状況によるので、明確な類型を作るのは困難だ。例えば、同じ「呼び捨て」でも、全く問題にならない場合と加害行為になる場合とがあり、呼び捨ては一律にいじめとする/しないなどというルールは作れない。

法律上のいじめの定義は「非常に広い」

そこで、いじめ防止対策推進法は、「児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているもの」(対策法2条)と非常に広い定義をした。

同じ学校に在籍すれば「一定の人的関係」が必然的に生じ、人が何かをすれば周囲に「心理的又は物理的な影響を与える」から、同じ学校に通う児童等の行為から「心身の苦痛を感じてい」れば、それだけでいじめと認定できる。

階段に一人で座っている子供
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この定義を前提にすると、例えば、生徒Aが登校するだけで生徒Bが不愉快に感じる状況では、Aが登校するだけでBにいじめをしたことになる。また、お互い嫌いあっていれば、双方にいじめが成立する。いささか極端な感じもするが、ここまで広く定義しなければ、対処が必要ないじめを取りこぼしてしまうという深慮に基づく。

いじめの定義が非常に広いため、当然のことながら、第2条の「いじめ」に該当するというだけでは、損害賠償や差止の対象にはならない。第4条が「児童等は、いじめを行ってはならない」と規定するのは、あくまで罰則のない訓示規定だ。