セクハラを受けた女性側が仕事を失うという問題

「どうしたら性加害がなくなるかをずっと考えてきました。問題がありすぎるんですね。まず心身の健康を崩すという問題もあるし、まさに『#私が退職した本当の理由』に投稿されている例のように、女性が仕事を失って収入が激減することもあるし、子どもだったら学校生活が送れなくなったり、勉強ができなくなったりとか、親からの加害の場合は、家族関係や本人の人間性にまで影響します。

段ボールに入れた荷物を運ぶビジネスウーマン
写真=iStock.com/mapo
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警察で無視されたり、頑張って訴えても不起訴になったり、刑罰が軽すぎたりして、みんなそれを他の人のせいにするんですよね。これは警察の問題だろうとか、弁護士はこう言うとか、男の部屋について行ったほうが悪いとか。結局、法律や仕組みが変わっても、社会全体の空気が性加害に甘ければ、何も変わらない。だから私は社会の空気を変えたいんです」

勇気ある告発で、日本でも「MeToo」の機運が高まってきた

驚くべきは、SNSでタグ付きで語られている告発の内容が、女性にとってはどれも珍しくなく、だれもが経験した、あるいは見聞きしたことのある「あるある」ばかりだということ。にもかかわらず、前出の匿名さんのように、それをがまんするのが当たり前だと言われてきた。

しかし、元TBS記者からの性被害を訴えた伊藤詩織さんや、元自衛官の五ノ井里奈さん、元舞妓の桐貴清羽さん、さらにジャニー喜多川氏や映画監督から被害を受けたという人たちが声を上げ、その勇気ある告発に背中を押され、日本でも「#MeToo(ミートゥー)」の機運が高まってきた。

そこに芸能人だけの話ではなく、フジテレビという大企業の社長が責任を取り辞任という事態になったことで、一般の会社勤めの女性たちも、これまで胸にしまっていた思いを打ち明けられるようになったのではないか。

「#私が退職した本当の理由」はそうした溜まりに溜まった憤りを噴出させる一つの大きなきっかけになったのだろう。

田幸 和歌子(たこう・わかこ)
ライター

1973年長野県生まれ。出版社、広告制作会社勤務を経てフリーライターに。ドラマコラム執筆や著名人インタビュー多数。エンタメ、医療、教育の取材も。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)など