エンタメの香りがする学校

【武中】とりだい病院は2029年着工で新病院建設に向かっています。その意味で学校の「器」に興味があります。この青翔開智は、普通の学校とは全く違った作りになっていますね。織田澤校長は設計から関わっておられるのですか?

【織⽥澤】はい。中学高校時代、こんな学校だったらいいな、という思いは誰もが持っているはず。それをこの学校で具現化しようと考えたんです。

職員室って、閉ざされていて叱られるときしか行かなかったじゃないですか。うちはご覧のように、職員室はガラス張りで廊下から中が見えるようになっています。

【武中】本館は正方形で、1階の真ん中には本棚が並ぶ〈ラーニングセンター〉があり、囲むように教室、職員室が並んでいます。ラーニングセンターの上は吹き抜けになっていて、2階も教室。教室もガラス張りで廊下から中を覗くことができる。1階には劇場のように段差をつけた階段の部屋もありましたね。

【織⽥澤】あそこは音楽室兼プレゼンテーションルームです。音楽の授業と探究学習の発表会に使っています。

【武中】こうした作りの学校は初めて見ました。以前、この連載で建築家の竹山 聖さんが、病院と学校は監視しやすいように刑務所と同じ基本設計になっているということをおっしゃっていました。

ここは全く違う。織田澤校長がこの学校に来る前に、キャラクタービジネスに関わっていたとお聞きして合点がいきました。どこかエンタメの香りがします(笑い)。

【織⽥澤】細かなところにも気を遣っているんです。全館Wi-Fiを使うことができます。Wi-Fi関係のコードなどが見えないよう、全部天井裏に隠してあります。

「人口最小県」の鳥取県だからこそ、できること

【武中】最後に、答えにくい質問をさせてください。青翔開智に来ている生徒の出身地を見ると、ほぼ鳥取県内。鳥取県は人口最小県であり、人口は減っている。少子化、過疎の影響はありませんか?

鳥取大学医学部附属病院広報誌『カニジル 18杯目』
鳥取大学医学部附属病院広報誌『カニジル 18杯目』

【織⽥澤】ほとんど影響ないですね。1学年50人の少人数というのもあると思います。県外から青翔開智に通いたいのだけれど、寮はないかという問い合わせもあります。一時期は寮を作ることも考えました。

ただ、鳥取県の子だけにこうした教育を提供するのも、すごく価値があることだと思っているんです。寮を作って都会から生徒を呼ぶというのは違うかなと。

【武中】鳥取県は人口最小ではあるけれど、人と人の距離が近い。そのため、東京ではできないことがあっさりできてしまったりする。

【織⽥澤】そうなんです。青翔開智はいろんな雑誌に取りあげてもらい、視察も多い。なんでこんなに注目されるんだろうと不思議に思って、知り合いに聞いたら「青翔開智は意思決定に至るまでのノイズが少ない」って言われました。確かにそうだなと。鳥取県だからこそ思い切ったことができる。それも利点だと考えています。

織⽥澤 博樹(おたざわ・ひろき)
⻘翔開智中学・⾼等学校 校⻑
1980年⽣まれ。群⾺県沼⽥市出⾝。電気通信⼤学⼤学院修了。⽇⽴製作所で災害救急システムのエンジニアを経験した後、キャラクタービジネスの業界へ転⾝。⼦ども向け玩具やイベント、キャラクターミュージアムの企画開発を行う。2012年より⻘翔開智中学校・⾼等学校の⽴ち上げに設⽴準備室室⻑として関わり、校舎建築、ファニチャー、ICT設備、図書館などの企画開発を行う。2014年に開校後は探究の授業開発を進め、⻘翔開智における探究モデルの基礎を作る。2016年度より副校⻑、2020年度より校⻑として学校経営にあたる。
武中 篤(たけなか・あつし)
鳥取大学医学部附属病院長
1961年兵庫県出身。山口大学医学部卒業。神戸大学院研究科(外科系、泌尿器科学専攻)修了。医学博士。神戸大学医学部附属病院。川崎医科大学医学部、米国コーネル大学医学部客員教授などを経て、2010年鳥取大学医学部腎泌尿器科学分野教授。2017年副病院長。低侵襲外科センター長、新規医療研究推進センター長、広報・企画戦略センター長、がんセンター長などを歴任し、2023年から病院長に就任。とりだい病院が住民や職員にとって積極的に誰かに自慢したくなる病院「Our hospital~私たちの病院」の実現に向けて取り組んでいる。