怒号やヤジが飛び交い、荒れに荒れたフジテレビ経営陣の会見(1月27日)。立命館大学でジャーナリズム論、アフリカ研究などを教える白戸圭一教授は「社長らが辞任を発表したが、その発端となった事件と会社の対応については明かされなかった。この会見がテレビ中継された理由は、ジャーナリズムとは別のところにある」という――。
1月27日、港社長らが辞任を発表したフジテレビの会見
撮影=石塚雅人
1月27日、港社長らが辞任を発表したフジテレビの会見

フジはオープンな会見で、ネットでの批判も受け入れたのか

――1月27日にフジテレビで行われた記者会見にプレジデントオンライン編集部員も出席しました。登壇は港浩一社長をはじめとする経営陣5人。参加はフリーランスの記者を含めてオープン、質問も無制限で受け付けるという方式で、10時間超にも及びました。

【白戸圭一、以下・白戸】1月17日の会見(社長定例会見という位置づけ)はテレビ・ラジオ放送記者クラブ員だけに絞り、閉鎖的だと批判を浴びたので、その反省と反動から逆方向に振れてしまったんでしょうね。ネットメディアが増えた現在、地上波放送局のフジテレビ自体がオールドメディアであるわけですが、そのオールドメディアのみで会見をやると、「仲間内だけで情報を共有している」と見られる。フジテレビに対する最も鋭い言論はSNSを中心とするネット空間で巻き起こっているわけなので、「そこを排除しない方がいい」という判断が働いたのでは、と推察します。

記者クラブ制が閉鎖的だと批判されたが、アメリカにもある

――たしかにニコニコ動画などのネットメディア、YouTuberも来ていました。しかし、フリーもOKにしたことで、不規則発言が多くなり、荒れた会見になりました。誰でも受け入れるというフジテレビの方針は正しかったのでしょうか?

【白戸】記者クラブ加盟社(新聞とテレビ)、大手の雑誌、フリーランスの記者……という構成が現実的でしょうね。また、ネットで取材の成果を発信しているジャーナリストにも優れた人はいるので、そういう人は選抜してでも入れるべきだと思います。

ここで、ひとつ指摘しておきたいのは、「日本の記者会見は記者クラブ制だからダメなんだ」という話。私は毎日新聞記者としてヨハネスブルク特派員、ワシントン特派員などを経験し、世界各国で取材してきましたが、どこの国にも記者クラブのような組織はあり、希望者が誰でも自由に参加できる記者会見などほとんどありません。会見への出席を希望してパス取得を申請しても許可されないこともあります。

――そうなんですね。日本は記者クラブが会見の場を仕切っているから、批判的な質問が少なく、「報道の自由度」の国際ランキングでも下位なのだと思っていました。

【白戸】例えば、アメリカ国務省の記者会見は、事前登録して出席が許されれば、外国メディアも参加できます。しかし、会見ではまず、古参の米国人記者が最初にいくつか質問し、その記者が納得行くまで独占的に何度でも質問可能で、他の記者は誰も挙手しないといった不文律がありました。南アフリカでもケニアでも、記者のインナーサークルはあり、古参記者が会見を仕切るようなことは普通でした。ネットで誰もが情報発信できる現在、会見の在り方は普遍的な課題であり、日本のマスメディアだけが特別に「閉鎖的だ」という批判は世界の実情を知らず、問題の本質を捉えていないと思います。

ただ、アメリカのジャーナリズムは非常に成熟していました。会見する側には、答えたくないことを答えない自由、記者の誰に答えるかを選ぶ自由がある。対するジャーナリストはファクトを突きつけて答えさせようと努力する。そのせめぎ合いは日本よりはるかに激しいと思います。