加齢に伴う病気の中には、健康診断や血液検査だけでは早期発見できないものがある。自身の経験をもとに男女の性機能について取材を続けてきた径書房代表の原田純さんは「60歳を過ぎたころ、助産師さんの強い勧めで腟ケアを始めたら、日本人女性の70%が予備軍とされる病気が見つかった」という――。
下腹部を手で押さえる女性
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欧米では「腟ケア」は当たり前だが…

8年ほど前『ちつのトリセツ 劣化はとまる』(径書房)という本を書いた。オイルを使って、腟や女性器をセルフケアする健康法を紹介・奨励した本だった。

そのころすでに欧米では、オイルを使って腟や女性器をセルフケアすることが医療行為として普及。当たり前に行われていた。それなのに日本では、一部の例外を除いてほとんど誰もそのことを知らなかった。

先進的な医療を積極的に取り入れていた聖路加産科クリニックは、その例外のひとつ。安産につながるとして、妊婦に腟のオイルケアを勧めていた。ところが、実際にそれを行った女性は約50%。残りの約50%の女性は、「女性器に触ることに抵抗を感じる」として、腟のオイルケアを行わなかった。

自分の体だ。しかも安産につながるとして、医療関係者から勧められていたのだ。それなのに日本人女性は、自分の女性器に触れることに、これだけ抵抗を感じている。これはいったいどういうことなのだろう。

腟はそもそも「デリケートゾーン」ではない

『ちつのトリセツ』が出版された2017年ごろ、これまた欧米で、「フェムテック」という言葉が使われ始めた。女性を意味する「フェミ」と「テクノロジー」を合体させた造語で、女性特有の疾患やトラブルを軽減させる商品やサービスを提供する産業の総称である。女性をターゲットにした、新しい市場のカテゴリーの誕生だ。おかげで日本でも、腟や女性器のケアに使うオイルなどが、大量に販売されるようになった。

その影響だろう。「ちつケア」は「フェムケア」と呼ばれるようになり、かつて「デリケートゾーン」と総称されていた女性生殖器は、日本を代表する女性泌尿器科医・関口由紀氏の提唱により「フェムゾーン」と呼称されるようになった。

デリケートゾーンをフェムゾーンと言い換えることについて、関口医師は、次のように語っている。

「女性生殖器は、そもそもデリケートな部位ではありません。排泄やセックス、妊娠や出産を担う、体のなかでは極めて頑丈な部位なのです。それなのにデリケートゾーンなどと言われると、簡単に触ってはいけない場所、なにか特別な場所のように思われてしまう。そのせいで多くの女性が、自分の生殖器に触ることすらできずにいる。これは、女性にとって大きなマイナスです」

最近、日本では、これまであまり問題にされなかったり、隠蔽されたりしてきた女性差別や性犯罪が、厳しく批判されるようになってきた。前時代的な日本の性文化が、変わりつつあるのだろうか。

あやしい。と、私は思う。