健康保険証廃止を止めて一からやり直すべき
必要な施策は明らかである。
まずJLISの利益共同体を解体し、台湾のオードリー・タンのようにITの知識を持つ者をデジタル大臣につけ、公正なルールの下で新しいIT企業の参加を促すことである。
マイナ保険証については、通常の健康保険証廃止を止め、一からやり直して、クラウド上でスマホのアプリにする。多数の紐付けを止め、一つひとつ独自のOS(オペレーティング・システム)で丁寧にプログラムを組んでいくことが必要である。
同時に、大学予算を復活させ、情報科学と人材養成の体制を組み直していかなければならない。
そもそも政府の医療IT化の方向性が完全に間違っている。個人情報のプライバシー保護(自分の医療・薬情報に誰がアクセスしたかを知る権利)を考慮しつつ、中核病院、診療所、高齢者施設、訪問看護・介護、薬局などを結びつける地域の医療介護ネットワークを作り、かかりつけ医や訪問看護を軸に、在宅医療・介護をサポートする。
そのうえで、慢性病などを持つ在宅患者にはブロードバンドを使って、独自のデバイスを用いて自身の健康データを自己管理できるようにするのである。
真の医療DXとは、利便性があり、安心かつ医療費の効率化を促す地域医療システムの構築である。
1952年東京都生まれ。経済学者。慶應義塾大学名誉教授、淑徳大学大学院客員教授。東京大学大学院経済学研究科博士課程修了。東京大学社会科学研究所助手、法政大学経済学部教授、慶應義塾大学経済学部教授などを経て、立教大学経済学研究科特任教授を歴任。専門は財政学、地方財政論、制度経済学。著書に『平成経済 衰退の本質』(岩波新書)、『人を救えない国 安倍・菅政権で失われた経済を取り戻す』(朝日新書)、『日本病 長期衰退のダイナミクス』『現代カタストロフ論 経済と生命の周期を解き明かす』(ともに共著、岩波新書)など多数。