政府のDXは決定的に間違っている
「裏金国家」に支配された政府の産業政策が日本の産業衰退をもたらしている。
政府の産業政策の看板とされているのはGX(グリーントランスフォーメーション)とDX(デジタルトランスフォーメーション)であるが、政府のGXとDXはともに決定的に間違っている。
本書でこれまで述べた政府のGXが、大手電力会社の地域独占を維持し、安全性もコスト面も著しく劣る原発推進を続けるかぎり、日本のエネルギー転換はどんどん遅れていくだろう。
本当の問題は、原発の安全性と雇用を確保しつつ、いかに高コストの原発をソフトランディングさせるかにある。ところが、大手電力会社の地域独占と天下りが結びついた日本型オリガルヒ経済に猛進して、時代遅れで危険で高コストのガラパゴス・エネルギー体制を維持しようとする完全に間違った産業政策を実行している。経済産業省を早急に解体しないかぎり、日本経済の衰退は止まらないだろう。
マイナ関連事業3000億円を大企業8社が独占契約
実はマイナンバーカード、とくにマイナ保険証を強制する政府のDXもまったく同じ構造に陥っている。このままでは、日本のITを救いきれないほど衰退させていくだろう。
この分野での裏金の実態は不明だが、政治献金と技術的に遅れた日本の情報産業のための救済事業との結びつきは非常に強い。
ほぼ10年間でマイナンバー関連事業を少なくとも3000億円近く発注していると見られるが、大企業8社が共同受注などで独占的に契約している。
自民党の政権復帰以降の9年分の政治資金収支報告書によると、8社のうち自民党の政治資金団体「国民政治協会」に献金していたのは、NTTデータ、凸版印刷(現TOPPANホールディングス)、日本電気、日立製作所、富士通の5社で計7億円に達するという報道も出ている。
その中心となるJ-LIS(地方公共団体情報システム機構)には総務省官僚が天下っている。
マイナ保険証は民間ならばとうに潰れる欠陥カード
マイナンバーカードとマイナ保険証は利便性もセキュリティもまったくないために、普及しない。実際、マイナ保険証は総点検後もトラブルが絶えず、2024年6月のマイナ保険証の利用率はなおも9.9%と低迷している。本来、民間だったら、とうに潰れてしまうような欠陥カードであることは明白であり、マイナ保険証の利用率がなかなか上がらないのは当然である。
トラブルが山ほど発生し、そのいくつかが今も解消されていない。
証明書の誤交付が起きる。公的口座取引など誤登録が多数出る。すぐに銀行が認証チェックできるはずなのに、こうしたミスが横行する。システム自体に欠陥があるのに、地方自治体の職員や利用者のせいにする無責任が行き交う。実際、システムの基本設計の間違いも多い。
まず、やたら多くの紐付けをするために、なくしたり盗まれたりすると、すべての個人情報が漏れてしまう。
ところが、デジタル庁とITに無知なデジタル大臣がアメとムチで対応する。マイナンバーカードが普及しないために、2兆円も使ったマイナポイントで国民をつったり、健康保険証を廃止して強制したりしてきた。4桁暗証番号のプラスチックカードを認知症や高齢者や子どもや身体不自由な方々などにも配布しようとして、事実上、情報弱者を切り捨てている。
国民皆保険が壊れていく危険性にもつながる
当面、マイナ保険証と同時に旧来の保険証を持てといい、旧来保険証の廃止期限を1年間遅らせて毎年資格確認書を出すだけでなく、暗証番号のない顔認証マイナ保険証、スマホのマイナ保険証(これもマイナ保険証をスマホに接触させないと使えない無意味なもの)など、数種類のカードが発行される極めて非効率なものとなっている。
結局、責任を回避するために旧来の保険証廃止を止められず、そのために事後処理がデタラメで混乱が混乱を呼んでいるのである。
マイナ保険証は総点検を行っても、なおも欠陥は改善されない。
顔認証ができない。それを解消するために解像度を緩めて、誰でも入れてしまう。認証システムも含めて2026年に新しいカードでやり直すので、新たなカードリーダーがまた必要になる。しかも5年ごとに健康保険証として更新しなければならないので、国民皆保険も壊れていく危険性も出てくる。
欠陥と無駄を重ねて政治献金企業が儲けていく究極の寄生システムになっている。
技術的にとんでもなく遅れたプラスチックカード
世界的にみれば、いまや生成AI、クラウド、先端的半導体GPU(映像処理できるNVIDIA製)が席巻しており、日本でもマイクロソフトやグーグルの大規模データセンターが建設されている。日本のIT企業はまったく歯が立たないくらい後れを取っている。
こうした事態を根本的に解決するつもりはなく、最初からスマートフォンとクラウドで対応する能力がなく、むしろ技術的にとんでもなく遅れた4桁の暗証番号で顔認証も不安定なプラスチックカードを全国民に強制しようとしているのである。
これまで日本のIT企業は、企業ごと、病院ごと、銀行ごとに閉じたシステムを作る自社が運営するオンプレミスの方式でやってきた。外部に閉じているので安全だと主張しながら、サーバーなどハードを売り、維持管理費用で稼ぐ方式である。施設内の情報システムは下請けに発注して作らせるので、プログラマーの地位が著しく低くソフトの開発力で格段に劣っていた。それゆえITゼネコンと揶揄されていた。
クラウドノウハウが欠けている日本のIT企業
ところが、いまやアメリカや中国の巨大IT企業はクラウドを運営し、そこからアプリを提供するプラットフォーム企業へと変貌した。そこは基本的にセキュリティが強化されたオープンなシステムで、利用者のコストは大きく削減されている。
これまで銀行が合併したり、病院ごとにオンプレミスで作ってきたシステムを外部につなげたりすると、しばしばシステムトラブルを起こすようになっている。これまで別々の会社がそれぞれシステムを構築し、つなぎ合わせたらバグが出てしまうのである。
今回のマイナ保険証では、日本のIT企業はクラウドを運営するノウハウに欠けており、時代遅れになっている欠点が露呈してしまったのである。
この間のマイナ保険証のひどい醜態を見れば、日本のIT企業の国際競争力の欠如は明らかだ。図表1を見れば明らかなように、日本の貿易収支上のデジタル赤字はいまや約5.5兆円にまで増加している。GAFAMには遠く及ばず、IT失敗企業群がJ-LISに集まり、自民党に政治献金を出して、国の数兆円もの税金に巣食って生き延びていこうとしているのである。
健康保険証廃止を止めて一からやり直すべき
必要な施策は明らかである。
まずJLISの利益共同体を解体し、台湾のオードリー・タンのようにITの知識を持つ者をデジタル大臣につけ、公正なルールの下で新しいIT企業の参加を促すことである。
マイナ保険証については、通常の健康保険証廃止を止め、一からやり直して、クラウド上でスマホのアプリにする。多数の紐付けを止め、一つひとつ独自のOS(オペレーティング・システム)で丁寧にプログラムを組んでいくことが必要である。
同時に、大学予算を復活させ、情報科学と人材養成の体制を組み直していかなければならない。
そもそも政府の医療IT化の方向性が完全に間違っている。個人情報のプライバシー保護(自分の医療・薬情報に誰がアクセスしたかを知る権利)を考慮しつつ、中核病院、診療所、高齢者施設、訪問看護・介護、薬局などを結びつける地域の医療介護ネットワークを作り、かかりつけ医や訪問看護を軸に、在宅医療・介護をサポートする。
そのうえで、慢性病などを持つ在宅患者にはブロードバンドを使って、独自のデバイスを用いて自身の健康データを自己管理できるようにするのである。
真の医療DXとは、利便性があり、安心かつ医療費の効率化を促す地域医療システムの構築である。