その先のストーリーが買い材料に

繰り返し述べている「見えない価値」を一言で表すと何でしょうか。

それは、人。そこで働いている人です。なぜなら、人がいないと価値をつくることは不可能だからです。

ならば人の価値を可視化する深堀りが必要ではないかと、岸田政権の「新しい資本主義実現会議」で提案したところ、人的資本経営の考え方の流れが生じ、2023年3月から大手企業約4000社を対象に「人的資本の情報開示」が促されました。

本来、人的な情報開示は人事部が持っている内部を管理する数字です。それを外向けに出すことには、各企業の経営層や人事部は戸惑いました。

しかし、私が長期投資家の立場として経営陣や人事部の方にお願いしているのは、「今のリアルな状態を見せてください」ということです。

現状が満足できていない状態でも、将来目指す先はより高い次元だという道標があれば、その期待値が買いの材料になるからです。だからこそ、戦略などをめぐる対話が求められてくるのです。

株式投資を始めたばかりの人は、積立投資であっても決してほったらかしにせず、それぞれの会社の個性を調べることをお勧めします。

100社あれば、100社のストーリーがある。過去のストーリーだけでなく、未来のストーリーも予測してみる。新NISAが、会社のストーリーを知る好奇心の扉になってくれる。これが個人投資家にとって、何よりも大切なマインドであると言えるでしょう。

グラフを描くビジネスマン
写真=iStock.com/violetkaipa
※写真はイメージです

構成=池田純子

渋澤 健(しぶさわ・けん)
シブサワ・アンド・カンパニーCEO

1961年生まれ。83年テキサス大学卒業。87年UCLA大学MBA経営大学院卒業。JPモルガン銀行、ゴールドマン・サックス証券会社などを経て、2001年シブサワ・アンド・カンパニーを創業。08年コモンズ投信を設立し、会長に就任。多数の公職と共に、外務省「SDGsを達成する新たな資金を考える有識者懇談会」座長などを務める。著書に『渋沢栄一 100の訓言』(日経ビジネス人文庫)、『SDGs投資』(朝日新書)など多数。渋沢栄一の玄孫(5代目の孫)にあたる。