約50年後の現在も残る女性裁判官の「ガラスの天井」
ドラマでは寅子が“事実婚”を最終的に選択しますが、桂場に職場での旧姓使用を求めに行った際、無理だと言われてしまいますよね。実際に裁判所は判決文などで戸籍名しか長年使用できませんでした。事実上、旧姓を使用することは裁判所では難しかったのです。これは最高裁が決めていたことなので、東京地裁所長だった桂場に頼み込んでもどうにもならない。あのシーンで桂場が困り果てた顔をしていたのは、そういう理由だったのです。結局、判決文などでも旧姓使用ができるようになったのが2017年。つい最近のことです。この点、民間企業などと比べても裁判所は遅れていると言わざるを得ません。
ちなみに、最高裁判所判事は現在15人ですが、そのうち女性は3人だけ。多いのは弁護士出身で就任するケースで、純粋に裁判官キャリアのみ積み重ねて最高裁入りした女性はまだ1人もいません。もちろん最高裁長官も初代の三淵忠彦からずっと男性です。
こうした中で今年、大きな動きがありました。検事総長に畝本直美氏が、日弁連の会長に渕上玲子氏が、女性で初めて就任しました。法曹三者のうち2者が女性のトップになったわけです。これは歴史的なことだと思います。しかし残る裁判所だけは女性のトップがいない。それどころか裁判官キャリアのみで最高裁判事となった女性もまだいない。長く最高裁の取材もしていますが、現状は数年先まで見ても女性の最高裁長官「候補」は見当たりません。
最高裁は「現状は決して意図的ではない」と言うでしょう。だとしても数十年かけて女性人材を大幅に増やせなかった“ツケ”が、法曹2者と比して遅れたこの現状を招いたのではないか。最高裁にも過去の取り組みに反省すべき点はあるのではないでしょうか。
三淵嘉子さんは52年前に女性初の家裁の所長になり、野田愛子さんは37年前に女性初の高裁の長官になりました。しかしなお最高裁に残る「ガラスの天井」を感じずにはいられません。
取材・構成=田幸和歌子
1970年生まれ。NHKで社会部記者として司法クラブで最高裁判所などを担当。司法クラブキャップ。社会部副部長などを経て現職。著書に『気骨の判決――東條英機と闘った裁判官』(新潮社、2008年)、『家庭裁判所物語』(日本評論社、2018年)、『戦犯を救え――BC級「横浜裁判」秘録』(新潮社、2015年)がある。