長寿者であればあるほど高血圧、糖尿病になるのが遅い

パールス先生の研究によれば、長寿者であればあるほど病気にかかりはじめる年齢も高い、つまり110歳の人のほうが高血圧、糖尿病など、加齢と関連する病気になる年齢が遅いという結果を示しています。

さらにもう少し詳しく見ると、110歳の人のうち、100歳以前に病気にかかっていなかったという人が約7割もいたそうです。慶應義塾大学の研究では、百寿者の生物学的年齢を調べたところ、実際の年齢よりもずいぶん若かったことがわかりました。110歳まで生きる人たちは、加齢の速度が遅いのかもしれません。

次に日本のデータです。これは、国立保健医療科学院の中西康裕先生が奈良県の医療データを分析し、終末期の医療費がどれくらいかかるかということを死亡年齢別に調べたものです(図表3)。

グラフの一番右が亡くなった時点を指しており、当然、亡くなる前は医療費が高くなります。ただし比較的若い高齢者と100歳以上の人たちを比較すると、100歳を超えている人のほうがずいぶんと医療費は低い結果が見てとれます。もちろん医療費だけではなく、介護保険をどれくらい使うのかというデータと重ねてみると、あまり変わらなくなるとのことでしたので、人生の終末期に必要な経費は変わらないかもしれません。

米国のデータは長生きすればするほど「ピンピンコロリ」になることを支持していますが、日本のデータはそこまでではないかもしれません。しかし、長寿者個人に注目すると、その可能性が見えてきます。

【図表3】死亡までの日数と医療費の関係
出所=『100歳は世界をどう見ているのか』(ポプラ新書)

世界最長寿者、木村次郎右衛門さんの認知機能は?

男性の世界最高長寿者であり116歳まで生きた木村次郎右衛門さんの認知機能については、111歳の時の測定記録を紹介しましょう。視聴覚の低下、つまり耳が遠くて老眼が進んでいたため、こちらのいうことがなかなか伝わらない。ご本人はお話好きなので、どんどん自分から話されるのですが、対話が成立しにくいところがありました。MMSE(ミニメンタルステート検査)という百寿者の研究ではよく使われる認知症のスクリーングテストも受けてもらいましたが、それはうまくできませんでした。

115歳の誕生日を迎え、お祝いに駆け付けたやしゃごを抱く木村次郎右衛門さん=2012年4月19日、京都府京丹後市
写真=共同通信社
115歳の誕生日を迎えた木村次郎右衛門さん=2012年4月19日、京都府京丹後市

けれども、家族の人に普段の生活の様子を聞き、さらに木村さんが話をしている様子から、認知症ではないと判断することができました。自分自身がどのような生活を送っているかということをきちんと把握し、また、ご自身が体験したことを驚くほど細部にわたって語ることができました。