恋愛に伴うあこがれの低下
当時は女子高生の3割はセックス経験済み、卒業時点ではもっと多かったはずです(当時の女子高生の親――今65歳くらいの人は「そんなに高いのか」と思うかもしれませんが、当該年代の私のゼミ生が、「高校時代に初体験したけど、両親は私のことまだ処女だと信じている」と語ったこともあります)。
それが、2011年から低下し、2017年には、キス経験率男子31.9%、女子40.7%、性交経験率男子13.6%、女子19.3%となります。それでも1974年よりは、特に女子の数値は相当高くなりましたが。
近年のキスや性交経験率の低下は、前回紹介した出生動向基本調査の傾向、2005年をピークとして「恋人がいる人が減少傾向にある」と一致します。
これらの恋愛の不活発化の解釈をめぐって、研究者から評論家までさまざまな説が唱えられています。私は「恋愛、特にそれに伴う、キスやセックスへのあこがれが低下した」「恋愛にコスパ、タイパを求める人が増えた」と解釈していますが、それについては次回以降に触れます。
デート経験に“足かせ”が消えた
今回強調したいのは、「デート」の位置づけの変化です。
デートの経験率はそれほど減っていないのです(中学生ではむしろ増えています)。となると、「デートと、キスやセックスとの結び付きが変化してきた」と考えざるを得ません。
私の仮説は、バブル前までは、「デート」する相手は特別の関係と意識されていた。しかし、結婚に結び付かないということで、キスやセックスは控えられていた(現在の60歳以上)。前回述べたように、「友人として交際している異性がいる」が多数いた時代です。
しかし、バブル経済期から、男女交際、つまりは恋愛を楽しんでもかまわないという意識が広がり始め、デートにおけるキスやセックスのハードルが下がっていった。その結果、「デートは経験しているけど、キスやセックスを経験していない」という人が減っていった。図表2からわかるように、1999年、2005年には、デートは経験しているがキスは経験していない人が、男女とも1割程度まで低下します。
しかし2010年頃から、恋愛を楽しんでもかまわないが、恋愛の「楽しみとしての価値」が下がる。恋愛は楽しみというより“面倒”と思う人が増える。しかも「デートする相手は特別な関係」という“足かせ”もなくなる。だから、デート自体を気軽に楽しむことはかまわない。よって、デート経験はそれほど減らない、というロジックが成り立つのではないでしょうか。
次回は、戦後から恋愛結婚が普及するまでの状況を見ていきましょう。
1957年、東京生まれ。1981年、東京大学文学部卒。1986年、東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。専門は家族社会学。学卒後も両親宅に同居し独身生活を続ける若者を「パラサイト・シングル」と呼び、「格差社会」という言葉を世に浸透させたことでも知られる。「婚活」という言葉を世に出し、婚活ブームの火付け役ともなった。主著に『パラサイト・シングルの時代』『希望格差社会』(ともに筑摩書房)、『「家族」難民』『底辺への競争』(朝日新聞出版)、『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』(光文社)、『結婚不要社会』『新型格差社会』『パラサイト難婚社会』(すべて朝日新書)など。