警備のミスをきちんと解明しないと、今後も安心できない

つまり、日本では首相や大臣という、国民が選んだリーダーに対する警護は非常に適当な扱いを受けていると言わざるを得ない。そんな状況の中で、安倍晋三元首相銃撃事件や、岸田文雄首相襲撃事件は起きた。

日本とは違い、アメリカでは普段の大統領警護や、大統領選挙キャンペーンにおいて、銃社会に対応した徹底した要人警護体制が構築されるはずであるが、今回なぜその警護計画、警備態勢にミスが起きたのか、これから調査、研究による解明が必要不可欠である。

これはアメリカの歴史を変える銃弾であり、アメリカの歴史を変えるテロリズムとなるかもしれない。トランプ前大統領の暗殺は失敗し、このテロリズムに立ち向かい、銃撃の直後に立ち上がり、耳から血を流しながらも右手を高く突き上げたトランプ候補の姿は、世界に大きなインパクトを与えた。この銃撃をかわし、生き残ったトランプ候補の存在は奇跡的である。

アメリカの民主主義の分断が極まったことを世界が目撃した

これがトランプ候補の大統領再選が実現しないように計画された銃撃テロならば、決して許されない行為であり、民主主義の破壊行為である。アメリカの民主主義の分断はここに極まった。このテロ事件をアメリカ国民の多くが、そして世界中の人々がメディアを通じて視聴した。

このテロリズムは世界中の人々が経験を共有する劇場型犯罪となった。このテロリズムの劇場のオーディエンスとして、アメリカの市民はこの暴力に対して団結するかもしれない。または反対に分断を深めるかもしれない。いずれにしても、このテロリズムはアメリカ国民に対してそのいずれかを選択させる影響をもたらした。そのように政治に対して暴力が影響力をもつことは許されず、民主主義において政治家が、また国民のリーダーが暴力によって倒れることがあってはならない。

福田 充(ふくだ・みつる)
日本大学危機管理学部 教授

1969年、兵庫県西宮市生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程単位取得退学。博士(政治学)。専門は危機管理学、リスク・コミュニケーション、テロ対策、インテリジェンスなど。内閣官房等でテロ対策、国民保護、感染症等に関する委員を歴任。元コロンビア大学戦争と平和研究所客員研究員。著書に『リスクコミュニケーション~多様化する危機を乗り越える』(平凡社新書)、『メディアとテロリズム』(新潮新書)、『テロとインテリジェンス~覇権国家アメリカのジレンマ』(慶應義塾大学出版会)、など多数。