年金の繰り下げが向いている人とは

私自身は、少しでも若く元気なうちにもらいたいと思っています。

というのも、私たち世代は小さいころから添加物の入ったものを食べていたり、今の高齢者よりも健康寿命が短いのではないかと思うからです。

身体が動かなくなってから高額な年金をもらっても、逆に税金や社会保険料・医療費の自己負担割合が増えるだけ、という可能性もあるわけです。

また、もらった年金を自分で運用して増やすというのもアリだなと思っています。

ただし、会社に勤めながら年金をもらう場合は注意が必要です。給与と年金の合計額が50万円を超えると、超えた分の半分がカットされてしまうからです。カットされた部分の年金は後から取り戻すことはできません。

「長生きする自信がある!」「70歳まではバリバリ働く」「年金をもらうまでは自分の預貯金で生活して、それ以降は増やした年金で生活する」という人は繰り下げが向いているといえます。

共働きの妻が繰り下げをするなら、基礎年金を繰り下げる

共働き夫婦で、夫よりも妻の方が「長生きしそうだ」という場合に、繰り下げをするなら、妻の基礎年金を「繰り下げ」るのが有利かもしれません。会社員だった夫が先に亡くなると、妻は自分の「老齢厚生年金」か夫の「遺族厚生年金」のどちらかを選ぶことになります。

妻の老齢厚生年金のほうが少なかった場合、夫の遺族厚生年金を受け取るのが有利です。妻が老齢厚生年金を繰り下げて増額していたとしても、その効果を得られる期間が短くなってしまうので、基礎年金のみを繰り下げたほうが有利なのです。

「遺族厚生年金」は夫の老齢厚生年金の75%程度(65歳時点の原則の金額で計算)。夫婦2人の時よりも年金収入が減ってしまいます。妻の「老齢基礎年金」を繰り下げることで増額して、これをカバーするのです。5年間繰り下げれば42%増。年金額が78万円の人であれば、約110万円となります。年間110万円の年金だけなら、税金はかかりません。「遺族厚生年金」は非課税です。

では、実際みんなはどうしているのか。

2020年の厚生労働省調べでは、「繰り上げ」をした人が5.3%。「繰り下げ」をした人が1.1%、残りの93.6%の人は65歳からもらい始めているとのこと。それだけ自分で決めるのは難しいのかもしれませんが、悔いのない選択をするためには「年金をいつから受け取るのか」ということにしっかり向き合っていただきたいと思います。

板倉 京(いたくら・みやこ)
税理士、マネージャーナリスト

保険会社・財産コンサルティング会社、税理士法人等で税理士業務に携わる。開業独立している女性税理士の組織、ウーマン・タックス代表。テレビ出演や全国での講演、書籍の執筆などの活動も多数。著書に『夫に読ませたくない相続の教科書』(文春新書)、『定年前後のお金の正解』(ダイヤモンド社)など。