カスハラで理不尽な目に遭うことも

さらに、添乗員が同行する旅行は全体的に年配層が多く、彼らの中には“カスタマーハラスメント”=カスハラを起こす者もいる。森さんはひどいカスハラを受けたことはないが、同僚は理不尽なクレームを受けたこともあるそうだ。

そしてこれほど責任が重い仕事にかかわらず、添乗員の報酬はあまり良くない。旅行業界の構造の問題で、利益が薄いのも一因だ。

だから仕事へのモチベーションが保てず、森さんの心が折れそうになることもあった。軽い帯状疱疹にかかって、添乗中止になったこともある。添乗員の体調不良で参加者に迷惑をかけるのはありえないことなのだ。

「でも、ここでやめたら負けになると思って踏ん張ってきました。CAの時とは違って、添乗員はどうしても“やりきった!”と思えるまで続けたかったんです」

そう、森さんは“負けず嫌い”だ。

60代は働き盛り、70代で現役バリバリの添乗員もいる

しかし、プラスマイナスで考えれば、良いことのほうが上回る。

添乗員は若手の人材不足から、50〜60代は働き盛り。70代のベテランがチーフ添乗員として大型の団体旅行を牽引することもある。

つまり世間の会社であれば、そろそろお役御免になりそうな年齢であっても、この業界では大いに必要とされる。

森さんのように異業種からの転身も多く、大手電気会社から定年後に添乗員になって活躍している男性もいる。ほかの仕事と掛け持ちする兼業添乗員も多い。

壁にもたれかかる、世代も肌の色も異なる女性たち
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実際に森さんが添乗員の資格を取る際、一緒に学んだ同期は、似たような年代の人が多かったので気後れすることはなかった。

行ったことのない添乗先は、先輩添乗員が懇切丁寧にレクチャーしてくれる。たまに百戦錬磨の先輩と同じツアーに出ることもあるので、人間関係がグッと豊かになる。

ちなみに、資格は民間資格。一定期間の座学や添乗講習を受け、その後筆記試験で合格となれば晴れて添乗員になる。「国内」の後に「総合」と呼ばれる国内と海外添乗員の資格を取れば海外へ飛べる。試験の合格率は90%以上と高く、海外添乗に必要な英語力は高校卒業程度で十分なので、門戸は広い。