「モメると得をするのは税務署ですよ」

税理士は遺産の分け方に口をはさむことはできないと述べましたが、税金の支払い方をアドバイスしたり故人の意思を伝えたりすることで、相続をなるべくスムーズに進めるお手伝いはできます。

例えば、親が住んでいた実家に住み続ける人がいる場合には、「遺産分割協議がまとまらないと、税金の優遇措置である小規模宅地等の特例が受けられませんよ」と耳打ちします。

意外に効果的なのが、モメそうだなと感じたら、早めの手当てとして“仮想敵国”をつくることです。仮想敵国とは税務署のこと。「モメると得をするのは税務署ですよ」と聞けば、誰だってわざわざ余分な税金を払うのはばかばかしいと思うでしょう。

ほかにも、遺言書の付言事項に書かれた親の本音を示すことで、相続人の心をほぐそうと試みることもあります。もちろん、最終的な目的はきょうだいの精神的な意味での「相続格差」をなくすことです。「いい相続だった」と思って親の思い出や生き方を継いでいってほしいからです。

もめている二人の間に入って仲裁する人
写真=iStock.com/pictore
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モメた相続は次の代にも影響する

さて、相続がモメにモメることのデメリットは、金銭的なものだけではありません。

むしろ、最大のデメリットは、親同士の戦いを子どもたちに見せていることにあります。50代、60代の親たちが争っている姿を、20代、30代の子どもたちが見ています。そんな子どもたちに対して、「君たちは仲良くやれよ」といっても説得力があるでしょうか。まったくありません。

天野隆、税理士法人レガシィ『相続格差 「お金」と「思い」のモメない引き継ぎ方』(青春新書インテリジェンス)
天野隆、税理士法人レガシィ『相続格差 「お金」と「思い」のモメない引き継ぎ方』(青春新書インテリジェンス)

下手をすると、次の世代、その次の世代の相続でも争うことで、モメやすい家系になってしまいます。もちろん、親たちを反面教師にして、自分たちはモメないようにしっかりやろうという人も数多くいます。いずれにしても、親は子どもたちの目をもっと気にすべきです。

デメリットとして一番困るのは、法事や結婚式などの冠婚葬祭です。モメたきょうだいが法事で顔を合わせるのは気まずいもの。また、墓守をしていた人がお墓を引っ越したいときには、関係者の許可を取らなくてはいけませんが、そのときにも気まずい雰囲気になってしまいます。

子どもの結婚式では、「あの家の子は呼んじゃダメよ」ということにもなります。いとこ同士は仲が良かったのに、親の都合で会えなくなるのは悲しいことです。きょうだいの不仲は相続後にも影響するのです。

天野 隆(あまの・たかし)
税理士法人レガシィ代表社員税理士・公認会計士

1951年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。アーサーアンダーセン会計事務所を経て、1980年から現職。著書に『やってはいけない「実家」の相続』(青春出版社)など多数。