世界の主流は養殖生産、日本はサケ遡上国の中で低緯度
世界のサケ養殖は、大西洋サケと、ニジマスに代表されるトラウトで盛んに行われている。大西洋サケの天然漁獲量は非常に少なく、生産量の99.9%が養殖である。トラウトは元々内水面で一生を過ごす「陸封型」のサケ・マス類を指していたが、今日では海面養殖も行われるもので、世界の生産量108万トン(2022年)の99.9%が養殖である。
これに対して太平洋サケは天然ものの占める割合が72%と高い。シロサケ、ベニザケは天然のみであり、養殖対象となっているのはギンザケ、キングサーモン、カラフトマスである。このうち統計上ではキングサーモンの養殖はニュージーランドのみで、カラフトマスはロシアのみで確認でき、ギンザケを養殖しているのは日本とチリである(図表2)。
天然サケの生産国をマッピングしてみると、天然サケは、北半球の限られた国でしか獲れないこと、サケが遡上する国の中で日本はかなり低緯度にあることがわかる。天然サケがずいぶん南まで戻ってきてくれるのは水温が低いためなので、千島海流、リマン海流などの寒流に感謝しておこう。
天然ではアメリカの32万トンが最大だが、養殖生産では大規模養殖をするノルウェーが155万卜ンと群を抜いている。ノルウェーはフィヨルドを利用した大生産地として発展した。マリンハーベスト社など3社で生産量の半分を占めるガリバー型寡占となっている。ノルウェーではこの大西洋サケのほかにニジマスも8万トン生産している。
養殖生産量世界2位のチリから、そのほとんどを日本が輸入
ノルウェーに次いで養殖生産量が大きいのがチリで、大西洋サケ、太平洋サケ(チリギン)、トラウト(ニジマス)を合わせると同国での生産量は107万トンとなる。チリでのサケ養殖の発端は、1980年代に国際協力事業に基づき日本のふ化技術を移転して開始したギンザケ養殖の開発輸入だった。こちらもパタゴニアのフィヨルドを養殖場にしている。「チリギン」と呼ばれる塩ザケは量販店の定番商品であり、チリギンの輸出量12万トンのほとんどを日本が輸入している。
一方、チリの大西洋サケ生産量はチリギンの3倍以上あり、チリの目はもはや世界に向いているのだ。チリの養殖場もノルウェーほどではないが大規模で、マリンハーベスト社が首位を占めている。水産業の成長産業化を目指す日本としては、開発輸入から始まったのに本家である日本を追い抜いたチリの養殖戦略も研究すべきだろう。