第二幕がなければ最悪の顚末にはならなかった

舞台裏は、このように大揉めの状態だったが、最終回は無事に予定通り放送され、全10話でドラマは完結した。この「セクシー田中さん」事件をざっくりとしか知らない人が誤解しがちなポイントがある。それは完成したドラマは原作をおかしな方向に変えたものではなく、芦原氏が求めたとおり原作に忠実で、漫画のファンにとっても芦原氏にとっても満足のいく内容になった、ということだ。小学館の報告書にも「結果的に社員Aは、芦原氏の納得するドラマ制作を果たした」と記されている。

小学館と日本テレビの両陣営も胸をなで下ろしたようだ。プロデューサーも編集者もかなり疲弊していたようだが、ここで、終わり良ければ全て良しと幕引きにすることもできた。しかし、最終回放送の数日後、脚本家が自身のInstagramに、最終2話の脚本から降ろされたことを不服とするコメントをアップし、悲劇の第二幕が始まってしまう。

脚本家へのバッシングが始まった

それに対する「アンサー」(小学館報告書)という文章を芦原氏がブログとX(旧Twitter)にアップし、それを見たSNSユーザーが脚本家を原作改変の戦犯としてバッシングした。小学館の「多くの炎上を経験した」ことがある関係者は「たいへんなことになった」と思ったという(小学館報告書)。

「アンサー」には脚本家への批判は書かなかっただけに、その事態にショックを受けた芦原氏が投稿を削除し、その後、死体で発見されるに至ったというのは、報道されてきたとおりだ。

いったい何が死のトリガーだったのかは、芦原氏本人しかわからない、いや本人にも、急性ストレス障害のような状態になり、認識できていなかったのかもしれない。小学館の編集者たちも、直前までオンラインミーティングなどでコンタクトを取って問題を共有しており、まさかそこから芦原氏が極端な選択をするとは思っていなかったようだ。

ただ、芦原氏がXの最後の投稿に記した「攻撃したかったわけじゃなくて。ごめんなさい。」(2024年1月28日)というメッセージには、考えさせられるものがある。