受験費用を”見える化”しておくことが大切

さて。では一体どんな家庭が「受験向き」と言えるのでしょう? たしかに佐藤家は世帯年収も高く、子どもも第1志望に合格し、目標を達成できたことに違いはないですが、その陰では、お母さんが仕事を辞め、夫婦の老後資金が削られています。合格後は塾代だけでなく、裕福な周りの友人との交際費がかさむ可能性もありますし、きょうだいがいるご家庭なら、下の子どもたちに我慢を強いかねません。また、個人的にはどうかと思うのですが、子どもに“投資”することで、将来の出世を見返りとして期待している親御さんの話も聞きます。自分の老後を子どもに背負わせるとは、まるで“見えない奨学金”のように思えます。

緑の自然を背景にシニア夫婦の人形と積み上げられた硬貨、豚の貯金箱
写真=iStock.com/MonthiraYodtiwong
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私が子どもの中学受験を体験して痛感したのは、受験費用を“見える化”しておく大切さです。ママ友の中に、2月1日の試験開始からなかなか合格が出なかったことで、受験校を際限なく増やし続けたご家庭がありました。1週間、午前・午後と受験し続けた結果、受験料だけで30万円もかかった、と嘆いていました。

受験用のお金は別口座に移し、その範囲内で挑戦をする

私も最終模試では課金をしてしまいましたが、受験校については事前に子どもと綿密に話し合い、「この学校がダメだったら第2志望のあそこは受けるけど、そこがダメならチャレンジは終了」と、線引きしていたおかげで、受験料は予算内に収めることができました。つまり、親子で受験費用を「見える化」していたと言えます。

受験勉強は長期間に及ぶケースが多く、かけた時間や努力の蓄積から、最後は何が何でも受かりたいと、親子で熱くなってしまいがち。そこに歯止めをかけるための具体的な方策が、「見える化」です。月5万円でも年間100万円でもいいので、あらかじめ受験に使えるお金を別口座に移し、その範囲内でどんな挑戦ができるか、ぜひ親子で話し合うことをおすすめします。

お金を積めば積んだだけ成果が出やすいのはたしかで、子どもの頑張りに応えたい親は無理をしがちです。しかし、その負担が結局子どもの将来にのしかかってしまったり、他のきょうだいに影響を及ぼすようでは、本末転倒。

「受験向き」の家庭か否かは、世帯年収の高さではなく、受験に使えるお金を把握し、その中で頑張る体制を家族で作れるかどうか、ではないでしょうか。互いに自立し、幸せに暮らし続けられる家計の視点を忘れることなく、受験に挑んでほしいと思います。

高山 一恵(たかやま・かずえ)
Money&You 取締役/ファイナンシャルプランナー(CFPR)、1級FP技能士

慶應義塾大学卒業。2005年に女性向けFPオフィス、エフピーウーマンを設立。10年間取締役を務めたのち、現職へ。全国で講演・執筆活動・相談業務を行い女性の人生に不可欠なお金の知識を伝えている。著書は『はじめての新NISA&iDeCo』(成美堂出版)、『定年前後のお金の強化書』(きんざい)など多数。FP Cafe運営者。