苦労をなかなか理解してもらえない

この事例のように、片付けられない人と離婚したいというケースは数こそ多くありませんが、どの案件も忘れられないほど強く印象に残っています。

多くは、結婚する前は実家暮らしで部屋の様子がわからなかったり、部屋に行ったことがあってもそこまで汚くはなかったりして、片付けられない人とは知らずに結婚しています。

難しいのは、「配偶者が片付けられない人だ」と周囲に相談しても、苦労をなかなか理解してもらえない点です。

インターネット上にも似た相談は多数ありますが、「あなたが掃除をすればいい」と、相談した人自身が責められるだけで終わってしまい、弁護士に相談に行っても同じようなことを言われます。

「ちょっと片付けが苦手」という程度ではなく、結婚生活が続けられないほど家を汚くしてしまう人は一定数います。家族が粘り強く改善を試みたり、治療を勧めたりしても、本人が拒否してしまうとどうにもなりません。Aさんの妻のように、片付けること、ごみを捨てることを頑なに拒む人もいます。

婚姻関係の破綻を立証できれば離婚が認められることも

こういった場合であっても、婚姻関係が破綻したことが立証できれば離婚を認められる場合もあります。そのときは、部屋の状態と、何度も注意しても改善がなかった点が立証できる証拠が必要になります。

証拠はとても大事です。単に「配偶者が片付けてくれない」と説明するよりも、写真を見せる方が、状況が伝わりやすくなり、説得力が各段に上がるためです。モラハラなどの場合も、証拠が全くない場合に比べて、度を越した暴言を繰り返している録音がある方が、離婚しやすくなります。

誤解されがちですが、調停においても、裁判と同じように、証拠の提出は可能です。写真は印刷した状態で、音声や録画は文字に起こした状態で提出することになります。そういった証拠があれば、いくら本人が否定しても、反論する証拠がない限り、その事実があったという前提で話が進みます。

証拠を提示しながらSOSを出す

これは裁判や調停に限らず、周囲にSOSを出す時のポイントでもあります。

モラハラやDVなどでつらい思いをしている場合、言葉で言うだけでは伝わらなくても、写真、音声、録画があると、相手の異常さや危険度がすぐに伝わります。SOSを受ける側も、「ここまで怒鳴っている人は危険だから、すぐに離れた方がいい」といった具体的なアドバイスをすることができます。

深刻な状況の人ほど、「これでは離婚できない」と一人で抱え込んで悩みがちですが、Aさんのように諦めずにSOSを出し続けていると、道が見つかることもあります。

特に子どもがいる場合は学校生活や将来に影響することもあるので、現状を打破するために一歩を踏み出してみましょう。

堀井 亜生(ほりい・あおい)
弁護士

北海道札幌市出身、中央大学法学部卒。堀井亜生法律事務所代表。第一東京弁護士会所属。離婚問題に特に詳しく、取り扱った離婚事例は2000件超。豊富な経験と事例分析をもとに多くの案件を解決へ導いており、男女問わず全国からの依頼を受けている。また、相続問題、医療問題にも詳しい。「ホンマでっか!?TV」(フジテレビ系)をはじめ、テレビやラジオへの出演も多数。執筆活動も精力的に行っており、著書に『ブラック彼氏』(毎日新聞出版)、『モラハラ夫と食洗機 弁護士が教える15の離婚事例と戦い方』(小学館)など。