日本人らしさを必要とし
国内回帰した企業の例も

──沖縄県が従来になく製造業界の注目を集めているといわれますが。

加峯 その主な理由には、沖縄県と本土との距離によるリスク分散の効果、比較的安定した電力供給体制、航空物流網などがあります。ANAは那覇空港をアジア向けカーゴのハブとし、毎日深夜の出発便で上海、台北、バンコクほか計5都市を結び、翌日には各市内の荷受人のもとへ配送可能な体制を実現しているのです。

また、同県うるま市の国際物流拠点産業集積地域(保税地域)へ本土から立地したメーカーの例も見られます。加工交易型のビジネスにメリットがあるほか、ある金型メーカーは「沖縄県金型技術研究センター」(人材育成、機器貸出、研究開発など)の存在も立地動機の1つだったそうです。

非製造業も沖縄県を視野に入れています。最近では人事給与部門の受託サービスを行う東京の企業が、中国・大連の外注先を利用するのをやめ、自社の業務施設を浦添市に新規立地したケースがあります。大連への外注は、『フラット化する世界』(T・フリードマン)で語られた現象の典型例といえました。ところが、顧客の依頼にプラスアルファのクオリティで応える日本流のサービスを中国で期待するのは難しかったようです。仕事に対する価値観などの違いのため、大連では意図した作業を十分に処理できない状況となり、国内回帰に踏み切ったのだといいます。

沖縄県の人口構成も魅力です。年少人口の割合が全国一高く(2011年、17.7%)、生産年齢人口の割合もトップレベル(同、65.1%)。若い人材が豊富であることも、さまざまな企業の関心を喚起しています。さらに沖縄は、世界に広がる沖縄和僑の強固なネットワークも販路拡大の強みです。

空洞化を防ぐ「とりで」で
環境産業の振興もスタート

──九州がもつ今後の可能性について、どのようにお考えでしょうか。

加峯 冒頭で経済指標をいくつか示しましたが、九州はいまの日本全体を見たとき、相対的には元気な地域といえるでしょう。特に製造業に関しては空洞化を防ぐ「とりで」が九州であり、日本に残すべきものづくりの受け皿の1つが九州であることは今後も変わらないと思います。自動車産業の九州シフトも加速し、九州における乗用車生産台数の全国シェアは2001年の6.8%から11年には14.3%へと大幅に伸びました。今日、九州が「カーアイランド」と呼ばれるゆえんです。また一時ほどでないものの、「シリコンアイランド」を形成した半導体製造分野も、高付加価値製品を中心に健闘しています。

九州への産業集積にはアジアとの近接性が強く作用しており、それが物流だけでなく人流の面にも及んでいることは、すでに述べました。現状でも大勢の外国人が訪れていますが、まだ増加傾向は続くでしょう。

ほかにここ1年間の新たな展開の1つとして、福岡県と福岡市、北九州市が国から「グリーンアジア国際戦略総合特区」に指定されたことも挙げられます。今後、環境産業を基軸に加えて全国をリードし、アジアの活力を取り込みながら、アジアとともに成長を目指す動きが北部九州で活発化するに違いないでしょう。

こうした好材料の数々をふまえ、九州の経済産業界は、自分たちがもっと元気を発揮し日本を盛り立てようと、意気込みに満ちています。そして九州は、これからも企業の立地ポテンシャルをいっそう高めていくことと思います。