アジアのゲートウェイ、福岡市。都市の競争力強化に向けて「アイランドシティ」の整備が進行中だ。その優位性、さらなる可能性や期待を、まちづくりに詳しい日本総研・主席研究員の藻谷浩介氏と髙島宗一郎・福岡市長が語り合った。
人・環境・都市が調和した
アジアのリーダー都市へ
藻谷 人々が都市に求めるものを考えると、やはり第一に賑わいだと思います。あわせて日本の場合、約50年前に公害を経験した後は、都市でも自然環境を大切にする傾向が強くなりました。福岡市はそれら両方で旗印を掲げ、国内外の都市間競争に挑んでいますね。
髙島 はい。私は市長就任前から福岡市を「人と環境と都市の調和のとれたアジアのリーダー都市」にしたいと考えていました。都市の経済規模・活力だけでなく、プラスアルファの価値として人・環境との調和を、アジアのリーダーとなるための武器にしていきたいのです。
藻谷 アジア諸国の大都市のビジネスエリートたちは、東京へ来ることも多いですが、実は福岡が好きだという声をよく聞きます。母国で人口500万~1000万人以上の都市にいる彼らには、東京の賑わいも新鮮味がない。それより都市としての一段上のクオリティーにひかれるわけです。つまり充実した都市インフラと豊かな自然の共存。加えてヒューマンスケール。人間のサイズにピッタリ合う都市のスケールですね。福岡は本当にちょうどよくて、心地いいんです。
髙島 福岡市はコンパクトシティですからね。福岡空港とJR博多駅、それに博多港が互いに近接していますし、住まいのエリアと都心も地理的・時間的に近い。また、都心には大濠公園をはじめとする緑地が豊富です。
そして、もちろんアジアにも近く、古くから活発な交流によって発展してきた歴史がある。今日では上海、ソウルへの移動時間が、東京までと同じ1時間半。釜山までは、わずか50分です。
藻谷 まさにアジアと日本をつなぐ福岡は、日本最古の港町でもありますね。博多湾が中国大陸に向かって開いており、湾内は波が静かだから古代の船舶技術でも着岸しやすかった。絶好の天然の港が発展への原点で、それはまさしく神からの賜りものであるといえるでしょう。
博多湾に誕生した新しいまち
「アイランドシティ」とは
髙島 福岡市は1994年度から博多湾東部において「アイランドシティ」の整備を進めています。博多港の機能強化や新たな産業集積、先進的なまちづくりを目的とし、アジアのリーダー都市を目指す戦略上、重要な事業の1つです。
藻谷 そこではどのような展開が?
髙島 市街地に新しいコンセプトを注入することは、非常に困難です。しかし「アイランドシティ」は、いわば真っ白なキャンバス。例えば3.11以降、日本中がエネルギー利用に対する価値観の大転換を迫られているなか、「アイランドシティ」をモデル地区としてスマートコミュニティづくりもスタートしました。また、ITなどの知識創造型の新産業や、健康・医療・福祉関連産業、アジアビジネス、大規模集客施設などの誘致を推進しています。
藻谷 なるほど。かつて国内の大規模な埋め立て事業では、長い事業スパンのなかで当初のまちづくり計画が、完成時にはもう時代のニーズに合わなくなっていたケースもありました。「アイランドシティ」では、社会経済情勢の変化を踏まえ、時代にあった視点・発想をもって、先進的なまちづくりを進めているわけですね。
髙島 ええ。例えば、太陽光発電などを備えた創エネ・省エネ住宅からなるスマートタウン「CO2ゼロ街区」(戸建住宅178戸)がこの10月にオープンしたのも、スマートコミュニティづくりの一環です。11月に姉妹都市であるフランス・ボルドーの市長が福岡市を視察された際に、最も関心を示されたのがアイランドシティの「CO2ゼロ街区」でした。
藻谷 そうでしたか。ボルドーは世界的に美しい街並みを誇りますが、エネルギー需給を含め、都市として高効率とはいいがたい。そこを「アイランドシティ」はクリアする方向にあるのですから、あとはボルドーのように薫り高い価値が長く続く街並みの実現も期待したいですね。