なおも厳しい経済情勢が日本を取り巻く今日、パワーを感じさせてくれる地域を挙げるとすれば、その1つは九州だろう。要因は多様だが、アジアとの近接性は傑出したアドバンテージである。アジアへの地の利も生かしながら、九州経済はどのような動きを見せているのか──。設立から66年の歴史をもつシンクタンク、(財)九州経済調査協会の調査研究部次長・加峯隆義氏に聞いた。
加峯隆義●かぶ・たかよし
(財)九州経済調査協会
調査研究部次長
1993年、鹿児島大学法文学部卒業。主な研究分野は地域経済学、国際経済学。近年は「九州・韓国南部地域超広域経済連携モデル策定調査」「北九州物流拠点化戦略基本方針素案作成業務」などを担当。
「量的な拠点化」を経て
「質的な拠点化」が進行
──まずは、九州経済の概況からお聞かせください。
加峯 今日は沖縄県を含めた8県を九州と定義し、お話ししたいと思います。九州の経済は、よく日本の「一割経済」と呼ばれます。実際、面積は44,468km2で国土全体の約11.7%、人口は1460万人で日本の総人口の約11.4%です。また域内総生産(GRP)は51.2兆円で全国の9.6%を占め、ほかの主要経済指標もおおむね1割前後となっています。
もう1つ、かつて九州の経済は、飛行機の後輪とも呼ばれた時代がありました。日本の景気がよくなる、いわば離陸するとき、最後に上がっていたのが九州。逆に景気後退、すなわち着陸のとき、いち早く下降していたのも九州の経済だったからです。
しかし、ここ10年余り、この傾向は変わりました。製造業の稼働率を示す鉱工業生産指数(図1)を見てみると、確かに1990年代までの九州は全国平均に遅れをとっていました。しかし、2000年代に入り、逆転したのです。私は、もはや九州経済は飛行機の後輪ではなくなったと思っています。
──2000年以降の九州ではどんなことが起こり、「後輪」のポジションを脱したのでしょうか。
加峯 要因を4つ挙げたいと思います。
第1に「量的な拠点化」です。メーカーを中心に、九州への設備投資が増大したのです。九州に山口県を加えた九州・山口経済圏における有形固定資産投資額の全国比は、1990年~99年の平均8.6%から、2000年~09年は平均11.0%へ上昇しています。この10年間に、増設を含め九州へ立地した主な企業グループとしては、トヨタ自動車、日産自動車、ダイハツ工業、キヤノン、富士フイルムなどがあります。
こうして企業の拠点が量的に増えましたが、初めのうちそれらの機能を見ると、製品の量産を担う組立工場が目立ちました。しかし、その状況も次第に変化します。第2の新たな動きは、九州の「質的な拠点化」です。つまり、組立工場からの機能強化が進んでいるのです。
具体的には、日産自動車が九州工場を分社化し、日産自動車九州(株)として意思決定力の強化を図りました。またダイハツ九州(株)には、親会社から部品調達権限が移管されました。
新たに設計・開発部門を九州に置いた企業もあります。本田技研工業は熊本に二輪R&Dセンターの分室を設置。トヨタ自動車九州、ダイハツ九州も設計・開発部門の立ち上げを準備中です。さらに(株)ホンダロックは、宮崎の技術者を増員しR&D機能を強化。ソニーセミコンダクタ(株)は、数百名規模の技術者を熊本に集約しました。
量的な拠点化による組立工場を、あえて人間の手足にたとえれば、質的な拠点化によって九州には頭脳も集結しつつあると表現できるでしょう。企業の狙いは、設計・開発から量産までのリードタイム短縮にあると考えられます。研究開発チームと生産現場の一貫体制をとることにより、市場が求める機能やニーズをより早く、タイムリーに満たすことができるのです。