なぜ不倫の発覚が「毒親化」のきっかけになるのか

A子さんのように、不倫をしたからと夫を責め立てて、さらに子どもに対して虐待に近い行為をする事例は少なくありません。「毒親」が問題になることが増えていますが、不倫の発覚が毒親化の原因になったケースは、私も何度も見たことがあります。

こういった言動をした人に話を聞くと、「他に誰にも相談できず、子どもに自分のつらさをわかってほしかった」「不倫をした夫が普通に子どもと接していることが許せない」と言います。中には、「自分の父親が起こした不始末について、子どもも詳しく知りたいはずだ」と言った人もいます。

不倫そのものよりも、その後の対応が子どもを傷つける

当然ながら、子どもも不倫の事実を知れば、父親がひどいと思ったり、怒りを感じたりします。しかし、子どもにとっては、不倫をしても親は親です。不倫をした親の人格を否定すると、その親の子どもである自分自身も否定されるように感じてしまう子もいます。

中には、子どもに不倫の証拠を見せたり、不倫相手に会わせたりする人がいますが、そうすることによって、不倫そのものよりも、子どもを傷つけてしまうことになります。大人になってからも、親の不倫問題に巻き込まれたことを「許せない」と感じている人もいました。

もちろん、不倫をされてつらい気持ちになるのは自然な感情で、そのつらさのやり場には皆さん苦労されています。

ただ、その気持ちを共有するべき相手は親や友達などであって、自分の子どもに詳細を教えるのはよいことではありません。

不倫について詳しく聞かされることは、子どもにとっては自分のルーツを否定される行為なので、自己肯定感が下がります。子どもの将来の恋愛観、結婚観に影響した事例も数多く見てきました。

子どもを巻き込むことで、不倫の影響が何十年も続いてしまい、自分も子どもも、余計につらい思いをすることになってしまいます。

特に離婚をしない状態で、子どもを不倫の話に巻き込むと、両親との間で板挟みになり、家に居場所がなくなるという問題もあります。

不倫を伝えるか伝えないか、どのように伝えるかは、その子の一生を左右することだと考えて、一時の感情ではなく、慎重に判断してほしいと思います。

堀井 亜生(ほりい・あおい)
弁護士

北海道札幌市出身、中央大学法学部卒。堀井亜生法律事務所代表。第一東京弁護士会所属。離婚問題に特に詳しく、取り扱った離婚事例は2000件超。豊富な経験と事例分析をもとに多くの案件を解決へ導いており、男女問わず全国からの依頼を受けている。また、相続問題、医療問題にも詳しい。「ホンマでっか!?TV」(フジテレビ系)をはじめ、テレビやラジオへの出演も多数。執筆活動も精力的に行っており、著書に『ブラック彼氏』(毎日新聞出版)、『モラハラ夫と食洗機 弁護士が教える15の離婚事例と戦い方』(小学館)など。