2024年3月の町議選ではぶっちぎりのトップで当選し復活

ただ、今年3月の町議選で、土屋氏は前回に続きトップ当選を果たした。しかも自ら立ち上げた「地域政党ゆがわら」から出馬した産婦人科医の新人候補、早乙女智子氏を応援しながらの選挙だった。早乙女氏も上位入選し、まずまずの結果。ようやく孤立状態から脱し、2人会派となった。「裁判では負けたけど、民意は自分を支持してくれた」と土屋氏は受け止めている。

土屋氏とコンビを組む早乙女氏は、「隠されていたことを暴いて、懲罰を受けるなんて絶望的。民主主義を破壊する行為。でも土屋さんはしっかり生き延びてきた。今後はいじめのない議会にするため、見張り役となり一緒に戦う。低迷している日本の国力を盛り上げるのが女性の力」と話す。

62歳の早乙女氏は「女性が置かれている状況がひどすぎる」と医療現場でずっと感じてきたという。医者で終わるのではなく自己実現や社会貢献をしたいと思い、湯河原町に移住して立候補した。

町長選までは口にしてこなかったが、実は土屋氏は、湯河原温泉の代表格だった、今はなき天野屋旅館の支配人だった祖父を持つ。天野屋旅館は夏目漱石が逗留し、その絶筆となった『明暗』にも登場する由緒ある旅館だ。「湯河原の旅館をずっと回してきたのは女性たちだ」という自負が土屋氏の中にある。でも「旅館業の利益を代弁するために議員になったわけではない」と言う。

筆者のYouTubeチャンネル「地方議会のUターン新人議員叩き 湯河原元町議 土屋由希子氏」 (2023年8月23日公開)

少子高齢化の波に抗って町を活性化できるかが課題

「議員が支持組織の利益を代表するタイプの政治はもう古い」というのが土屋氏の考えだ。20年後の町をどのようにしたいか、そのために今何をしなければならないか、というところから発想していかないと、高齢化と少子化の進む湯河原はやがて消滅してしまう、という危機感が強くある。

40代となった土屋氏は湯河原生まれだが、もう今、湯河原で子どもが生まれることはない。既に町内には分娩設備があるクリニックも助産院もなく、小田原などに行って産むしかないのに、その状況が放置されている。「今、湯河原で育っている子どもたちのために、こんなに頑張ってやっている。自分のためだったら、とても無理」と、2児の母でもある土屋氏は話す。

だが地元の高齢者と話すと「自分はもう長く生きないから」と言われたりする。生まれ故郷で「お任せ民主主義」を変えようとする彼女のような人材が、今後どれだけ若い世代から出てくるだろうか。そのこと自体が将来どんなに貴重なことになる時代がくるか、たぶん私たちはまだよくわかっていない。

柴田 優呼(しばた・ゆうこ)
アカデミック・ジャーナリスト

コーネル大学Ph. D.。90年代前半まで全国紙記者。以後海外に住み、米国、NZ、豪州で大学教員を務め、コロナ前に帰国。日本記者クラブ会員。香港、台湾、シンガポール、フィリピン、英国などにも居住経験あり。『プロデュースされた〈被爆者〉たち』(岩波書店)、『Producing Hiroshima and Nagasaki』(University of Hawaii Press)、『“ヒロシマ・ナガサキ” 被爆神話を解体する』(作品社)など、学術及びジャーナリスティックな分野で、英語と日本語の著作物を出版。