「最も偉大なアスリート」の資質

これまでの大谷はプレーで魅せていれば、アメリカのファンも満足していた。しかし、大都市ロサンゼルスの名門球団で7億ドルを稼ぐ「セレブ」となった今は、グラウンドの内外で厳しい視線が向けられることになる。

些細なことが大きなスキャンダルとして扱われるかもしれない。それを苦痛に感じる日本のファンもいるだろうが、現実として受け入れるしかない。

前出のジェームズやブレイディは、メディアやアンチの批判に晒されながらも、在籍チームを優勝に導き続け、「最も偉大なアスリート」に名を連ねるようになった。大谷にも同じ資質がある。WBCで日本を優勝に導く姿を見て、筆者はそう感じた。

実際、「水原事件」があったことなど微塵も感じさせない好スタートを切った。記者の質問にも、いつもと変わらぬ様子で淡々と答えている。

活躍を支えている「冷たさ」

大谷はインタビューで自分のことを他人事のように語る。

自身を客観視し、感情を切り離すことができるのだ。

「冷たさ」を感じることもあるが、このメンタリティーが大谷の活躍を支えていると筆者は分析する。

野球は9人が9回をめまぐるしく戦い、逆転はいつ何時でも訪れる。どんなに良い打者でも3回に2回は失敗し、運が結果を左右することも多い。思えばこれほど思い通りにいかないスポーツはないかもしれない。

これからもいくつもの波を乗り越えていくことで、これまで「謎」とされていた大谷の人間性がアメリカ人にも伝わっていくだろう。実際、「水原事件」によって、「お金に興味のない野球少年」のイメージはアメリカにも広まった。

全米のメディアやスポーツファンが野球に注目するポストシーズン。大谷はそこで活躍してドジャースを優勝に導き、さらなるスターの階段をかけ上がることができるのか。

今年もメジャーリーグから目が離せない。

山の頂上に立つ人
写真=iStock.com/Devrimb
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志村 朋哉(しむら・ともや)
ジャーナリスト

1982年生まれ。国際基督教大学卒。テネシー大学スポーツ学修士課程修了。英語と日本語の両方で記事を書く数少ないジャーナリスト。米地方紙オレンジ・カウンティ・レジスターとデイリープレスで10年間働き、現地の調査報道賞も受賞した。大谷翔平のメジャーリーグ移籍後は、米メディアで唯一の大谷担当記者を務めていた。著書に『ルポ 大谷翔平 日本メディアが知らない「リアル二刀流」の真実』、共著に『米番記者が見た大谷翔平 メジャー史上最高選手の実像』(共に朝日新書)がある。